家庭は社会を映す鏡 「コロナの時代」「令和」の橋田ドラマを見たかった
2021年04月06日 05:30
芸能
脚本の厚さは本人も自覚。「『北の国から』はセリフがあまりないから、本の厚さは私の半分くらいかしら。役者は楽よね」と話した際の少女のような笑顔が忘れられない。無論、ほぼ表情だけで心情などを伝える演技の難しさは知っていた。
仕事の厳しさで知られたが、かわいい一面もあった。クルーズ船好きは有名で、特に2004年、数千万円を費やした豪華客船「飛鳥」での南極・南米旅行は「最大の夢」だった。帰国後、激動の昭和を描いたNHK「ハルとナツ」についてインタビュー。近い人からは「ペンギンの話は触れるな。止まらない」とくぎを刺されていた。舌を滑らかにしてもらおうと冒頭で振ったら案の定、間近で見たペンギンの話だけで予定時間の多くが消費されていった。
脚本の著作権は全て、番組とその作品に携わった人を顕彰する「橋田文化財団」に寄付。その総数は優に2400本を超える。再放送時の権利料は財団に入る。「だから、新しいものを書き続けないと生活できないんです」と笑ったこともあった。「執筆中のものが失敗したら次は仕事が来ない。だから一生懸命書くんです」と。
「橋田ドラマは生き物」と言われてきた。ホームドラマのジャンルを確立させた橋田さんの持論は「ホーム(家庭)は社会を映す鏡」だ。連続ドラマ終了後も2019年までスペシャル版が放送された「渡鬼」だが、昨年はコロナ禍で作品化はならなかった。
ありとあらゆる社会の風景が一変。ジェンダー平等も問われている。書きたい、書かなければならない題材はあったに違いない。橋田さんが「家庭」を通して切り取る「コロナの時代」「令和」…ぜひとも見たかった。 (文化社会部専門委員・小池 聡)