向田邦子賞に「モコミ」橋部敦子さん 忘れられない橋田寿賀子さんの言葉「これからも私の中に残っていく」
2021年04月06日 16:00
芸能
橋部さんはもともとはダンサー志望だったが、23歳の時にケガをして断念。その時にとある劇団の脚本を書いたことをきっかけに、シナリオライターの道に進んだ。これまでフジ「救命病棟24時」、同「僕の生きる道」などの僕シリーズ、同「ゴーストライター」、同「フリーター、家を買う。」、NHK連続テレビ小説「ファイト」、TBS「A LIFE~愛しき人~」などの作品を手がけてきた。
「モコミ」は「脚本家として持っていたテーマを完了していいかなと、区切りを付けた作品だった」という。そのテーマとは「自分を受け入れる」ということ。「僕の生きる道」では、主人公が否定していた人生を最後に肯定して一生を終え、「ゴーストライター」では自分嫌いな主人公が最後は自分を好きになる。そうした「自分を受け入れる」ということをテーマに書いた集大成的作品だった。
向田邦子賞は「雲の上の賞」と思っていたが、2004年に初めてノミネートされて目標となった。13年にも候補となり、今回が3回目。「17年越しの目標で、“今回は頂きたい”と思っていたのでホッとした」と笑顔を浮かべた。
テレビっ子ではなかったが、向田邦子さんが脚本を書いたドラマ「阿修羅のごとく」(NHK、79~80年)だけは「鮮烈に覚えている」といい、食い入るように見ていた。脚本家となった後に向田さんのシナリオ全集をほぼ読んでおり、「鋭くてあったかい感性。尊敬やあこがれの思いを持っていた」。それだけに向田さんの冠がついた賞を受けた喜びは大きい。
3日前に部屋の整理をしていて驚いたこともあった。たまたま見つけたメモに「モコミで向田邦子賞を取る」と書いてあったという。いつ書いたものか記憶にないが、まさに有言実行を果たした。「企画の時から賞を狙っていたことが分かりました」とおどけた。
現在は新たに書きたいテーマを自分に問うため、充電期間に入っている。「いったん真っさらな状態になってる」と明かした。
4日に脚本家の大先輩である橋田寿賀子さんが95歳で死去。橋部さんは2005年に、橋田さんが理事長を務める「橋田文化財団」が主催する「橋田賞」を受賞している。「ごあいさつをして帰る時に“あなたは明るいから大丈夫よね”と声をかけてくださった。その意味がその時は分からなかったけど、脚本家をやっていれば辛いこともあります。その言葉を思い出して、大丈夫と思える。これからも私の中に残っていくと思います」と目を潤ませた。