トム・ジョーンズ 門外漢にも懐かしい歌声
2021年05月04日 10:03
芸能
今から55年以上も前の話だ。そんな曲が長い時を経て日本のCMに使われ、菜々緒とオカリナの芝居を盛り立てているのはなかなか興味深い。
トムは4月23日、ニューアルバム「サラウンデッド・バイ・タイム」を発売した。新作は2015年の「ロング・ロスト・スーツケース」以来、6年ぶりだ。全英アルバム・チャートで初登場1位。80歳で新作が全英1位になるのは、ボブ・ディランの79歳(2020年発売のアルバム「ラフ&ロウディ・ウェイズ」)を抜いて史上最高齢記録となった。
この新作を自宅のオーディオセットでじっくり聴いた。不勉強ながら、トム・ジョーンズの曲を真剣に聴くのは初めて。英国の音楽では、トムと同じ1940年生まれのジョン・レノンらがいたザ・ビートルズに傾倒してきた。
完全な門外漢だ。ところが、実際に耳にしてみると、なぜか、懐かしい感覚にとらわれた。この歌声を昔から聴いて暮らして来たような気分。忘れていたことを思い出したような心持ちになった。とにもかくにも80歳にして伸びやかで朗々とした声に引きつけられた。
計12曲で、うち11曲がカバー、1曲がオリジナル。カバー曲のトッド・スナイダー「トーキング・リアリティ・テレヴィジョン・ブルース」とマルヴィナ・レイノルズ「ノー・ホール・イン・マイ・ヘッド」が既にシングル発売されているが、個人的に印象深かったのはノエル・ハリソン「風のささやき」だ。
「風のささやき」は、米国俳優のスティーブ・マックイーン主演の映画「華麗なる賭け」(1968年公開)の主題歌。フランスの作曲家のミシェル・ルグランが作曲した名曲で、アカデミー賞の歌曲賞を受賞している。ノエル・ハリソンの歌は繊細な雰囲気だったが、トムの歌は渋く骨太で、歌手としての力量が良く分かる。
日本盤ボーナス・トラックは「よくあることさ」。新作から続けて聴くと、55年以上の時の流れを感じつつ、なんとも浮き浮きした気分になる。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。