小林亜星さん ヒットの法則から見える“人との絆”
2021年06月20日 08:10
芸能
音楽理論で言えば、亜星さんは「1つの曲に一番高い音階は1カ所だけ。何度もあると盛り上がったことにならない」というこだわりを持っていた。レコード会社関係者は「その高音以外の部分は比較的狭い音域で構成され、メリハリがある」と話す。また、音楽関係者は「シャープやフラットといった半音の使い方も効果的」と称賛。ヒットには理論的な裏付けがあった。
だが、亜星さんは、理詰めの部分以外でもヒットの法則を持っていた。
まず「詞がないと曲を書かない」という姿勢。これには「詞というものには、人の気持ちが込められている。それを受け止めてメロディーにするのが作曲家」という思いがあった。作詞家と膝をつき合わせて、詞の世界を議論することもしばしば。詞を書いた人の気持ちに寄り添うという思いが大変強かった。
CMソングを手がける時は、その企業のトップに必ず会ってから作曲に取りかかった。広告代理店の関係者は「会って意気投合したときのCMソングはたいていヒットするという経験則をお持ちだったと聞く」と話す。
曲を作るとき、必ず子どもたちの存在を意識した。亜星さんは「子どもは時代の半歩先を感じ取る存在」と受け止め、子どもに受け入れられる曲を作ることに腐心した。表現者として真剣に童心と向き合い、そして支持された。
亜星さんにとって、曲を作ることは、人と人との絆の確認作業だったようにも見える。才能でねじ伏せるようなアーティストも魅力はあるが、どことなく温かい亜星さんの作風には「みんなで好きな歌を歌って、楽しく過ごしたい」という願いが色濃くにじむ。
歌を通して、平和な世界をみんなで楽しむ世の中を理想とした亜星さん。天国でも多くの人に囲まれ、楽しくピアノを前に歌っていることだろう。