「おかえりモネ」際立つ映像美 チーフ演出が明かす照明とアングルの裏側“光と影”“演者の前に入る恐れ”

2021年06月20日 07:45

芸能

「おかえりモネ」際立つ映像美 チーフ演出が明かす照明とアングルの裏側“光と影”“演者の前に入る恐れ”
連続テレビ小説「おかえりモネ」第2話。樹齢300年のヒバの木を見に百音を連れて行ったサヤカ(夏木マリ)。逆光が印象的なシーンの1つ(C)NHK Photo By 提供写真
 女優の清原果耶(19)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は、繊細な人物描写とともに映像美が際立つ。特に宮城ロケを行った第1~5週は、登米と気仙沼の自然も相まって視聴者を魅了した。独特の光の使い方やアングルについて、チーフ演出の一木正恵監督に聞いた。
 朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」やテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達奈緒子氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。

 今作は天気が題材のドラマ。一木監督は「この作品は、このシーンは晴れ、このシーンは雨と、シーン毎に極めてキッチリ天気が設定されています。例えば、曇りでも薄曇りなのか雨が近いのか、細かく決まっていて。天気がキャラクターの心情に寄り添うように撮りたい、と考えていました。なので、このドラマを演出するにあたって『光が最も大事、光で空気をリード』というのが最初からのスタンスです。朝ドラは膨大な量を収録していく勢いや体力も必要なことから、若手の照明マンがつくことも多いんですが、今回は一番信頼の置ける照明マン、牛尾裕一さんに照明チーフをお願い。もう1人のチーフ・水村享志さんとともに、朝ドラの枠にとどまらない、情感に寄り添った映像表現が実現していると考えています」と今作における光の役割を明かした。

 牛尾氏は「スニッファー嗅覚捜査官スペシャル」「ストレンジャー~上海の芥川龍之介~」で日本映画テレビ照明協会・最優秀照明賞(ドラマ部門)。一木監督とは大河ドラマ「八重の桜」「いだてん~東京オリムピック噺~」でタッグ。水村氏は「透明なゆりかご」で清原との撮影を経験している。

 特に昨年秋に行った宮城ロケは「撮影場所と時間帯から、太陽の光がどう入ってくるかを計算して、カメラをどこに構え、キャストがどう動くと最も美しい絵(画)が撮れるかを導き出しました。そういうふうに光を大事に、綿密にロケハンをして撮影に臨みました。光の美しさというのは、実は影の部分があるからこそ、非常に印象に残ると思うんです。光と影を意識して絵(画)作りをしています」

 画面の奥から光が差し込むシーンが幾度もあった。例えば、第3話(5月19日)。朝、気仙沼・亀島の高台の上にある永浦家から海を臨むシーン。海から朝日が差し込み、鯉のぼりがはためく中、母・亜哉子(鈴木京香)がカゴを手にして坂を上ってくる。

 「高台の上から朝に撮れば、海から朝日が差してくるのはロケハンをして分かっていたので、『ヒロインのお母さんが光の中から現れてくる』という絵(画)作りがいいなと思いました。一方で、よく見ると、東日本大震災後で工事中の防潮堤などがシルエット気味に暗く、ほのかに映っているんです。影の部分として」。第3話の時代設定は2014年5月。震災から3年という時間を、光と影で表した。

 第2話(5月18日)で百音とサヤカ(夏木マリ)が樹齢300年のヒバの木を見に行くシーン、第10話(5月28日)のラストで百音が書店で気象予報士試験の本を手に取るシーン、第19話(6月10日)のラストで亮(永瀬廉)が泥酔した父・新次(浅野忠信)を介抱するシーンなども“逆光”が印象的だった。

 そして、第5話(5月21日)、第1週屈指の名場面となった幻想的な移流霧(いりゅうぎり)のシーン。百音は気象キャスター・朝岡(西島秀俊)、サヤカ、翔洋(浜野謙太)と宮城県登米市を流れる北上川に移流霧を見に行った。

 車を降り、霧を見つめる百音たちを朝日が照らす。百音の脳裏には、3年前(2011年)に発生した東日本大震災の記憶がよみがえる。

 「私の地元、気仙沼の海にも冬になるとけあらしっていう霧が出るんです。これと凄くよく似た風景が、港に広がるんです。私、そのけあらし見るのが、小さい時から、とても好きで。(涙がこぼれ)(3年前の回想)でも、あの日、私、何もできなかった…」。朝岡は「霧は、いつか晴れます」と声を掛けた。清原と西島を横から収めるカメラワークは、静謐ながらも強く訴えるものがあった。

 「美しい霧を見つめながら、百音が胸の奥にしまっていた心情を訥々と語り、朝岡たちが耳を傾ける大事なシーン。清原さんと西島さんを真正面から撮ると、2人と霧の間にカメラが介在することになるので、それは慎重に考えないといけません。もちろんプロの役者さんはカメラがどこにあろうと集中して演じることができますが、今回は2人が目の当たりにしている物(霧)をカメラで遮らず、その空間を収めたいと思いました。キャストに一番いい演技をしてもらうには、どういう撮り方がいいのか。当然、前からも撮るんですが、このシーンは横や後ろからのアングルを特に大切にしました。カメラが演技者の前に入ることへの恐れを意識したチームでありたいと思っています」

 透き通るように美しく、情感あふれる映像の裏には、隅々まで行き届いた演出があった。
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