「おかえりモネ」“新次”浅野忠信 名演の舞台裏 ガラケー握り締めた“誓い”初の朝ドラで圧倒的な存在感

2021年07月08日 08:15

芸能

「おかえりモネ」“新次”浅野忠信 名演の舞台裏 ガラケー握り締めた“誓い”初の朝ドラで圧倒的な存在感
連続テレビ小説「おかえりモネ」第39話。最愛の妻・美波の声が残された携帯電話を強く握り締める新次(浅野忠信)(C)NHK Photo By 提供写真
 俳優の浅野忠信(47)がNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)で朝ドラ初出演。ヒロイン・永浦百音(清原果耶)の幼なじみの漁師・及川亮(永瀬廉)の父・新次役を好演している。8日に放送された第39話で、最愛の妻・美波(坂井真紀)への思いを吐露し、視聴者の涙を誘った。2013年前期「あまちゃん」など朝ドラ演出5作目となる桑野智宏監督に浅野の魅力や撮影の舞台裏を聞いた。
 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」やテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達奈緒子氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。

 浅野が演じるのは、亮の父・及川新次役。以前は気仙沼で右に出る者はいないと言われたカリスマ的な漁師だった。百音の父・耕治(内野聖陽)とは幼なじみの親友。母・亜哉子(鈴木京香)が産気づいた時には嵐の中を船で本土へ運び、赤ん坊(百音)の命を守った。

 2010年、銀行員の耕治が資金繰りをサポートし、1億2800万円をかけて19トンの船を新しく造ったが、被災。11年10月、耕治は新次に「とにかく、おまえ船を買え。買うために船乗って、金を稼げ」「船、持てよ、もう一度。おまえには船が似合うよ」と勧めたが、融資は通らず。親友の間には溝が生まれ、新次は立ち直るきっかけをつかめずにいる。

 第39話は16年1月、姿が見えなくなり「海に落ちたかもしれない」と心配された新次は、かつて自宅があった場所で酔いつぶれていたところを無事発見された。ひとまず永浦家に連れられてきた新次は耕治や亜哉子、龍己(藤竜也)の前で長い間抱えてきた、どうにもならない苦しさを打ち明ける…という展開。

 アルコール依存症の治療のため病院に通い、酒断ち。土木関係の仕事に就いてコツコツと借金も返済し、再起し始めた矢先。龍己が「それとも何か、酒でも飲まねぇと、やってられないことでもあったか?」と聞くと、新次は「いや、違います」と首を振った。

 「5年って長いですか。おまえ、まだそんな状態かよって、あっちこっちで言われるんですよ。でもオレ、何でか、もうずーっとドン底で。オレ何も変わらねぇ。いや、そういう中でね、うれしいことがあったんです。昨日、病院から帰ったら、連絡があってね。船に乗っている亮からメカジキ50本揚げたって。もうそれがすんげぇいい声で。明日港に戻るから、親父、見に来てよって。何だ、ガキじゃあるまいしって思ったけど、その、言っていることガキなのに、その声がもう子どもじゃなかったのが、オレ物凄くうれしくて。もしかしたらオレに似て、筋がいいんじゃねぇかなって思って…。それをしゃべる相手が…話す相手がいないんだ。ホントだったら一杯飲みながら、一緒に親バカだなって言い合える、美波がいないから…。それで気付いたら、家があったとこ戻ってた。ホントに毎回迷惑掛けて、ごめんな、耕治。もう本当にごめんな」

 亮は父を心配し、永浦家に駆けつけていた。縁側で父の思いを知り、茶の間に上がると、泣きながら母が大好きだった曲「かもめはかもめ」を歌い、父の携帯電話を叩き壊そうとする。新次は「歌なんかやめろよ、おまえ。オレは歌なんかで誤魔化されねぇからよ。オレは立ち直らねぇよ。絶対に立ち直らねぇ!」と取り返した携帯を、強く握り締めた。

 SNS上には「朝から大号泣」「朝から名演大渋滞や。目が腫れる」「息子の成長の喜びを分かち合う相手がいない」「絶対に立ち直らねぇ。ずっと愛しているってことだよね」「絶対に立ち直らねぇ、新次さんの弔い方なのかもしれない」「新次の中では、立ち直る=美波さんを忘れる、になっちゃうんだろうな。朝から涙が止まらん」「泣け。思いっきり泣け、新次」「ずっと悲しみ続けるのって、とても良いことだと思う。そうしてあげられるのは新次と亮だけだから」「浅野さんの演技で朝からボロ泣き」「浅野忠信の存在感は別格」「浅野忠信のキャスティングの意味が分かる回」「今朝は泣いた。朝ドラ史上最高のドラマではないか」「今週は神回ならぬ神週」などの声が相次いだ。

 桑野監督によると、百戦錬磨の浅野も脚本・安達氏が書いた台詞「オレは立ち直らねぇよ。絶対に立ち直らねぇ」に感嘆。「浅野さんは、この台詞は何回読んでも涙が止まらないとおっしゃっていました。リハーサルは普通、役者さんにとっては相手の役者さんとの間合いや演出の意図を確かめながら、ある程度、演技を探る場だと思うんです。浅野さんももちろんテクニカルな部分も凄いんですが、特にこのシーンの時はリハーサルの時から気持ちの入った芝居をされて、本番の時に感情が枯れることもありませんでした。浅野さんは新次という役柄を考えて過剰なお芝居もされないですが、共演する相手の気持ちが強く出た時に自然と強く返される、そのお芝居は新次さんが本当にそこにいるように見えます」

 昨年10月、浅野のクランクイン初日は気仙沼ロケだった。第1話(5月17日)冒頭、台風が接近する中、漁港近くの居酒屋にいる新次に耕治から「亜哉子が産気づいた」と電話がかかってくるシーン。そこから400メートルほど離れた場所に、この日の第39話に登場した新次の自宅跡地があった。

 「初回の撮影の合間、浅野さんをその近くにお連れして、実際に津波がどの辺まで来て家々が流されたのか、お話をさせていただきました。今年1~2月に39回をスタジオで撮る時、3カ月以上経っていましたが、浅野さんはそのことをよく覚えてらっしゃった。なので、新次さんが第8週に至るまでどういう場所でどういう思いで美波さんのことを思っていたのか、浅野さんと共有することができたのかなと思います。39回のあのシーンでは、テストが終わった後に1つだけ浅野さんにお願いをしました。『オレは立ち直らねぇよ。絶対に立ち直らねぇ』という台詞は、美波さんに誓うように言ってください、と。すると、本番ではガラケーを握り締めてのあのお芝居。あの日から5年近くが経っても何も変わらない美波さんへの思いを一気に吐き出す浅野さんの芝居に、感動というよりも衝撃を受けました。演出側はリハーサルの感触から『こういうお芝居になりそうだから、カメラ位置をここにしよう』などと、いろいろな想定をして本番に臨みますが、想定を遥かに超えるお芝居を目の当たりにし、浅野さんの凄さに鳥肌が立ちました」

 映画を中心に、世界を舞台に活躍している浅野が初の朝ドラに焼き付けた名演と圧倒的な存在感。新次の心に深く刻まれた痛みが和らぐ日は来るのか。

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