「The Covers」 音楽的原点から8年
2021年09月04日 08:30
芸能
約8年で放送は計約160回。日本のテレビに新たな音楽文化を根づかせた感がある。
制作統括の川村史世さん(NHKエンタープライズ)は番組の出発点をこう振り返る。
「当時、社内のさまざまな人がカバーの番組ができないかと考えていて、企画を出し合っていました。私の個人的事情としては、小学校から中学校までエジプトに住んでいて、祖母が日本のことを知らせるために「ザ・ベストテン」(1978年~89年、TBS)などの音楽番組を録画して送ってくれていたのです。海外で昭和の名曲を聴いて大好きになって、そのキラキラした世界観が心に残っていました。昔聴いて好きになった曲への思いは視聴者にもあるだろうし、アーティストにもあるだろうから、それを番組にできないかとずっと思っていて、その思いを企画に託しました」
誰が何を歌うのか。それが番組の核だ。川村さんはこう説明する。
「当初は、リリー・フランキーさんが司会を務める番組のひとつの個性として、『テレビでカバーをしなさそうな人』を第一に考えていました。そのアーティストの音楽的原点がどこにあるのか?それを語ってもらい、その曲を披露していただくということを肝としていました。『春だから春の曲を歌ってください』ではなく『ご自身の音楽的原点は何ですか?』という話から始まっています。例えば、斉藤和義さんや田島貴男さんは沢田研二さんの歌を聴いていたとか、横山剣さんは筒美京平さんや大瀧詠一さんが作った曲を聴いていたとか…。こちらの方から、視聴者が聴きたいであろう曲をリストアップして『こういう曲はいかがですか?』と提案することもあります。選曲が大事なので、ご相談に時間をかけています」
アーティストからすれば、その曲を実際に歌わなくてはいけない。自身の音楽活動がある中で特別に練習してスタジオで収録に臨むのは容易ではないはずだ。
「凄く練習して来ていただいています。ありがたいし、心苦しい部分でもありますが、収録では、みなさん、ほぼ1発撮りです」
初挑戦の曲をほぼ1発撮り…。そこに一流アーティストの凄みを感じる。
9月シリーズの幕開けとなる5日の放送では郷ひろみが「六本木心中」(アン・ルイス)などを歌う。
「郷さんはデビュー50周年イヤーのレジェンド中のレジェンドで、多くのアーティストがリスペクトする、カバーされる側の方です。アン・ルイスさんが『六本木心中』を歌った1984年はご自身が『2億4千万の瞳』を歌った時代で、同時代のトップランナーの名曲をカバーしていただく回になります」
日曜の楽しい夜はこれからも続く。
「MCのリリー・フランキーさん、水原希子さんとともに、音楽をストレートに届ける番組、音楽の話をストレートにできる番組でありたいと思っています」と川村さんは力を込めた。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。