細やかな人間描写がしみいる!五所映画祭
2021年10月23日 13:56
芸能
久我美子も31年の生まれ。五所監督が57年に発表した「挽歌」で、奔放に生きるヒロイン兵藤怜子を演じている。建築家・桂木(森雅之)とその妻(高峰三枝子)との不思議な“三角関係愛”を描いた原田康子のベストセラー小説の映画化で、筆者の故郷で、霧の町として知られる釧路でロケが行われたと古い資料にある。
76年にも河崎義祐監督のメガホンで映画化され、こちらはヒロインに秋吉久美子(67)、桂木に仲代達矢(88)、その妻に10月22日に米寿を迎えた草笛光子が扮した。もちろん釧路市内でも撮影が行われ、市内の高校に通っていた筆者もロケ見物に出掛けたものだ。
「挽歌」でグッと身近に感じるようになった五所監督だが、やはり「煙突の見える場所」(53年)を見た時の感動は忘れられない。今でも時々DVDを引っ張り出すが、見る度に引き込まれる。
椎名麟三の「無邪気な人々」の映画化。見る場所によって本数が違って見える北千住のお化け煙突。その界隈に住む人々の日常を描いた。足袋問屋に勤める中年男とその妻、そして2階の下宿人という2組の男女と、下宿の前に捨てられた赤ん坊をめぐって物語は展開してゆく。競輪場の風景など当時の風俗がのぞくのもたまらない。
「マダムと女房」にも出演していた田中絹代はじめ上原謙、高峰秀子、芥川比呂志、浦辺粂子、関千恵子、花井蘭子ら芸達者が、五所ワールドに染まって見事。音楽を手掛けたのは作家・芥川龍之介の三男である芥川也寸志で、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞の音楽賞を受賞。長兄の比呂志は毎日映コンで助演賞を贈られている。
回顧上映では他に「井上靖原作の3部作「わが愛」(60年)「白い牙」(60年)「猟銃」(61年)や「愛と死の谷間」(54年)「恐山の女」(65年)など36本がラインアップされた。さらに「十九の春」(33年)の撮影風景など五所監督の姿が映った貴重な映像もお目見えする。
来年は生誕120年。新たな企画も待ちたい。