「おかえりモネ」脚本・安達奈緒子氏“手当て”に込めた思い 触れる行為「覚悟必要」今度は菅波が百音に

2021年10月26日 08:15

芸能

「おかえりモネ」脚本・安達奈緒子氏“手当て”に込めた思い 触れる行為「覚悟必要」今度は菅波が百音に
連続テレビ小説「おかえりモネ」第117話。菅波(坂口健太郎)と百音(清原果耶)(C)NHK Photo By 提供写真
 女優の清原果耶(19)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は26日、第117話が放送された。俳優の坂口健太郎(30)が好演している医師・菅波が、主人公・百音(清原)の背中に“手当て”。東日本大震災を背景に「人の痛みと葛藤」に誠実に向き合い、その「救いと再生」を丹念に紡ぎ上げてきた脚本・安達奈緒子氏に思いを聞いた。
 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」などやテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。

 第117話は、菅波(坂口)が永浦家へ結婚のあいさつ。耕治(内野聖陽)の帰りを待つ間、百音(清原)が菅波を未知(蒔田彩珠)の研究スペースに案内し、2人の仕事について語り合っていると、泥酔した耕治が帰宅。「色気のねぇ会話してんなぁ~。それが結婚を誓い合った若い人のする会話か?」と文句を言いながらも、いつの間にか耕治も交え、仕事の展望の話になる。そして菅波はあらためて百音との将来への思いを耕治と亜哉子(鈴木京香)に伝える…という展開。

 お互いの仕事も尊重し合う“菅モネ”らしい結婚がまとまると、百音の携帯電話には未知から亮(永瀬廉)と気持ちが通じ合ったと連絡が入る。百音は「大事な人たちが幸せになる。こんなにうれしいことないよ。よかった」と感涙。菅波は百音の背中にポンポンと手を当てた。

 相手の背中をさする“手当て”は、今作における人の痛みをやわらげる象徴。第61話(8月9日)、車いすマラソンの選手・鮫島(菅原小春)が練習中に背中がつった時、百音が鮫島の背中をさすった。「不思議やなぁ。人の手って『痛いの痛いの飛んでけ』ってホンマに飛んでく気がするのは、何でやろうな。人の手って、ありたがいもんやな」と語る鮫島に、菅波は「手当てって言いますからね。治療の基本なんですよ」。第62話(8月10日)、百音の誕生日に登米で訪問診療をしているおばあさんの具合が悪くなり、菅波は「おばあちゃん、もうちょっと涼しくなってきたら、もうちょっと楽になるからね」と背中をさすった。

 第43話(7月14日)、菅波は震災当日、島にいなかったことを打ち明けた百音の背中に触れようとしたが、躊躇。そして第65話(8月13日)、今度は菅波がホルン奏者・宮田(石井正則)の治療をめぐる新人時代の後悔を打ち明け、涙。百音は思わず菅波の背中をさすった。

 第103話(10月6日)は「私、何を選んだらいいの?研究?家の仕事?亮くん?ごめん。ダメなの。もう頭の中グチャグチャ」と葛藤して涙があふれる未知を百音が、第105話(10月8日)は「あの日、震災のあの夜。私、モネや未知のこと考えて、生徒たちを置いて、学校を離れようとしました。子どもたちを親御さんの元に返すまで、私なりに頑張ったけど、でも、でもあの10分間が頭から離れなくて、私は教師は続けられないと思いました」と教師時代の苦悩を打ち明けた亜哉子を耕治が“手当て”した。

 書面インタビューに応じた安達氏は「『痛み』とは残酷なものだと思います。身体的感覚は、どんなに愛情や関係性が深かろうと絶対に共有できない。それなのに『痛み』は相対化されてしまいがちです。わたしも自分の尺度で物事をとらえ、本質を理解しないまま他者を冷ややかに見てしまうことがあります。自身の冷淡さに愕然とします。けれど、こういった絶対に理解できない『人の痛み』に対して、心から寄り添いたいと願い、奮闘している人は確実に存在していて、そういう人間の善い行いが世の中をよくしているのだと気づかされます。取材でお話をうかがった方々に、その『思い』を強く感じました」と言及。

 第80話(9月3日)、百音を抱き締めた菅波の言葉「あなたの痛みは、僕には分かりません。でも、分かりたいと思っています」にも集約されるように、「痛み」は今作の核心のテーマの一つ。「『痛み』は残酷だけれど、そこに向き合うことで人間の強さ、優しさを感じることもできるのではないか。そして、その第一歩が『触れる』ことなのだろうと考えました。触れるとは直接関わることであり、他人の身体に触れる行為は、ひとつ間違えれば暴力になります。簡単に超えてよい一線ではない。だからこそ『触れる』には覚悟が必要で、触れられた時には相手を思う切実さがそこに集約される。だから人の手は温かいと感じられるのだと思います」と“手当て”に込めた思いを明かした。

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