「おかえりモネ」朝ドラ史に刻む挑戦結実 脚本・安達奈緒子氏が最後まで容赦ない作劇 コロナも盛り込み
2021年10月29日 08:15
芸能
朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」などやテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達氏が手掛けたオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描いた。
最後まで“容赦”なかった。
現代を舞台にした物語は最終回で2020年2月に進み、コロナ禍まで盛り込まれた。今作の制作が発表された昨年5月27日の時点で「2019年。予報士として一人前となった百音は、大型台風が全国の町を直撃するのを目の当たりにする。これまでに得た知識と技術を生かし、何とか故郷の役に立てないかと思った彼女は、家族や友人が待つ気仙沼へと向かう決意をする──」とプロットが明かされていたが、想像を超える展開が待っていた。
残り3話となった第117話(10月26日)。亀島の永浦家を初訪問し、結婚のあいさつを終えた翌2020年1月14日朝。菅波は恩師の医師・中村(平山祐介)から「実は、呼吸器専門の医師を出してくれないかと要請がありまして。緊急らしくて。うち(東成大学附属病院)もまだ詳細待ちなんだけど、感染症なら人手が要るから」と急きょ東京に呼び戻された。
新型コロナウイルスと明言こそしていないものの、現実とリンク。その後、菅波は百音と2年半会えず、最終回で再会を果たした。人と容易に会えなくなった時代を映し出し、菅波の言葉「残念ながら僕らは、お互いの問題ではなく、全くの不可抗力で突然大事な人を失ってしまうという可能性をゼロにはできません。未来に対して、僕らは無力です。でもだから、せめて今、目の前にいるその人を最大限大事にする他に、恐怖に立ち向かう術はない」(第116話、10月25日)に「人の絆」が託された。
残り2話となった第118話(10月27日)。未知が震災の日から抱え、誰にも言えなかった自責の念を姉に吐露した。
「私…あの時…おばあちゃんを置いて逃げた。どう言っても、引っ張っても、おばあちゃん動いてくれなくて。海が見えて。1人で逃げた。その後、たぶん、大人たちが来て、おばあちゃんを助けてくれたんだと思う。でも…私は…絶対…自分を許すことはできない。ここで、自分が、何かの役に立てれば、いつか…」
「お姉ちゃん、津波、見てないもんね」。亮(永瀬廉)をめぐる嫉妬もあり、百音に八つ当たりしているようにも見えた未知の言動が反転。新次(浅野忠信)と亮、及川父子の苦悩も克明に描かれた分、それぞれが未来へ一歩踏み出した最終回に救われた。
近年多かった朝ドラの王道パターン「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは完全に一線を画した。
「当事者と第三者」「土地を離れるか、離れないか」「若き者たちへのエール」など、今作には多様なテーマがあったが、通奏低音となったのが「痛み」。「生きてきて、何もなかった人なんていないでしょ。何かしらの痛みはあるでしょ」――。百音の同僚の気象予報士・内田(清水尋也)の言葉(第78話、9月1日)に象徴されるように、登場人物それぞれが抱える「痛み」と「葛藤」を時に残酷なまでに、そして、その「救い」と「再生」を背中をさするように“手当て”しながら、安達氏が丹念に紡ぎ上げた。
百音と気持ちが通じ合った時、菅波は「あなたの痛みは、僕には分かりません。でも、分かりたいと思っています」(第80話、9月3日)。プロポーズでも「僕は、あなたが抱えてきた痛みを想像することで、自分が見えてる世界が2倍になった」(第91話、9月20日)と口にした。
亮も未知と気持ちが通じ合った時、「時々、オレより苦しそうなんだよね。やっぱ、何かにずっと縛られてきたんだろうなって、感じることがある。そういうのは、オレだから感じてやれんだよな。他のヤツには絶対分かんない。でもオレなら、みーちゃんが抱えてるもん、分かんなくても想像できる。それは、オレらだからだし。みーちゃん、心の底から笑えるようにしてやれんの、たぶんオレしかいない。いつか、笑えるようにしてやる」(第116話、10月25日)。
相手の痛みは分からずとも、分かりたいと寄り添う。当事者に対する第三者の想像力が世界を優しく包む。
「地味」「暗い」の声もあり、リアルタイムの平均世帯視聴率こそ15~16%台(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と苦戦したが、見逃し配信サービス「NHKプラス」はサービス開始以降、朝ドラ最高。チーフ演出の一木正恵監督も同局「note」に「リアルタイム視聴にこだわらない層が多くなるにつれて、より作品性が重視され、何度でも見たい、何度見ても発見がある、深く洞察できるドラマが求められる」「伏線が回収されたり、何かの結果が出たりした後で、もう一度見直すことが可能な今だからこそ、『おかえりモネ』は第1・2週において主人公・百音の過去をほとんど描かず物語を進行するという構成にも挑戦しました」などと思いを記した。