中村吉右衛門さん 27年間、150本で鬼平“完走” 池波正太郎氏推薦で起用も…「若造」と一度は固辞
2021年12月01日 17:43
芸能
江戸時代中期、悪党に“鬼の平蔵”と恐れられた火付盗賊改方長官の長谷川平蔵が、様々な難事件を解決する捕物帳。原作は作家池波正太郎氏の小説で、鬼平は吉右衛門さんの実父・初代松本白鸚さんをイメージして書かれた人物。69年に白鸚さん主演でドラマ化され、丹波哲郎さん、萬屋錦之介さんと引き継がれ、吉右衛門さんは4代目の鬼平だった。
89年に連続ドラマで25回放送され、平均で16・5%の高視聴率を記録。人情味あふれる吉右衛門さんの演技は高く評価され、評論家から「父を超えた」との声も上がった。終了後すぐに続編制作が決まるなど、鬼平は親子2代で当たり役に。平成初期の時代劇ブームをけん引し、映画版、舞台版にも主演した。
起用は池波氏の強い推薦から。だが、40歳の時に受けた最初の出演依頼を断っていた。「父の演じた大事な役。失敗はできない」と固辞した。大きな理由は「若造だったから」というもの。「人を引きつけて離さない平蔵の役は、人間としての厚みが必要」。鬼平に敬意を払っていたからこその辞退だった。
45歳の時に再度オファーを受け、出演を決断。「オヤジにはかなわないから、本数は1本でも多く演じたい」と意気込んだ。結果的に150本に出演し、父の91本を大幅に超えた。終了の大きな理由は「映像化できる原作がなくなった」というもので、吉右衛門さんは鬼平を完走した。
高い評価を受けても「池波先生の原作が良い」「私は良い衣装を着ただけ」などといつも殊勝に語っていた吉右衛門さん。「私は不器用でこらえ性もない。平蔵を見習わないといけない」とおごらなかった。その真摯(しんし)な姿は、正義感あふれる鬼平そのものだった。