山田裕貴 心理学を学ぶ 胸に響いたアドラーの言葉「トラウマは存在しない」
2022年01月09日 05:30
芸能
「“人生は他者との競争ではない”って、その通り。昔の自分が凄く人と比べてしまう性格だったから刺さります。“おまえの顔を気にしているのはおまえだけ”っていうのもよく分かる!」
共感すると、そのページの角を折る。実は一度読破したことがある本だが、知人に貸した後で無性に読みたくなって買い直した。
「特に好きなところは二重に折ります。この先、折ったところは何度も読み返そうと思っています」
元々、心理学が好きで、一時は文学部心理学科を志望して大学受験の勉強をしていた。進学はせず俳優の道を選んだが、昨年の外出自粛期間中に時間ができたため、心理学の本を読みあさった。アドラー心理学シリーズの「幸せになる勇気」や、ドイツの社会心理学者エーリヒ・フロムの「愛するということ」など。特に胸に響いたのはアドラーの「トラウマは存在しない」という主張だ。
「トラウマという存在しないものを利用して前に進もうとしないだけだと。僕自身、野球をやっていた父親とあまり会話ができず“父が家にいる感覚がない”“愛情を100%感じられなかった”と言っていた。トラウマというほどのことじゃないけど、それもきっと、誰かを愛する、愛してもらうことから逃げていただけなのかもしれません」
父はプロ野球の中日と広島でプレーし、昨季まで広島の2軍内野守備走塁コーチだった山田和利氏(56)。「アドラーの言葉はシビアだけど、ちゃんと理解すれば前を向けるんです」と、良い影響を受けている。
幼い頃から「なんで?」と疑問を持つことが人一倍多かった。特に宇宙に興味があり、天体観測が好き。解明されていないものへの知的好奇心が旺盛で、物心がつくと、人によって千差万別の「心」にも興味を持つようになっていた。
「一緒なんです。宇宙も人の心も。分からないから解き明かしたくなる。日頃から凄くいろんな人としゃべっていて“なんでこの人は今、目線をそらしたんだろう?”とか“今、一瞬あった間は何?”とか考えています」
俳優業にも通じるものがある。山田の役へのアプローチは、その役を実在する人物と考えることから始まる。
「人と向き合うのと一緒。この役のこと好きだなと思うと“どういう動きをするかな?”とか“どういうテンポで話すかな?”とか想像が膨らんでくる。そうやって僕の中で出来上がった人を生きようと思っているんです。演じようとはしていません」
不良組織の副総長、サイコパスな教師、おバカなバンドマン…。幅広く演じ分ける「カメレオン俳優」と高く評価されているのは、役そのものを生きる姿が多くの人に届いているからだろう。デビュー10周年を迎えた昨年は話題作への出演が相次ぎ、オリコンの「ブレイク俳優ランキング」で1位に。しかし「一年を振り返って」と聞くと、複雑そうな表情を浮かべ、自嘲気味にこう答えた。
「これまでも同じ熱量や考え方で演じてきたから、昨年はただ自分を見てもらえただけ。まだまだ。ずっと戦い続けていくために、よりクオリティーを上げていかないと」
人の心の動きを常に見つめ、受け止めてきたからこそ演技の幅も広がる。人間の心理を表現する役者という仕事は、それこそ山田にとって天職。我流のアプローチで役を生きながら、俳優人生のページをめくっていく。
《志村けんさんとの共通点に感激》昨年末に放送されたフジテレビドラマ「志村けんとドリフの大爆笑物語」では志村けんさん役に抜てきされた。演じてみて「志村さんは女の人が好きって言われていましたけど、お笑いに全てを注いで仕事から帰ってきてお酒を飲む時、隣にいるのが女性だと安心できたんじゃないかな」と思いをはせた。志村さんの「あいつは変わっている、と言われるのは光栄なことだ」という言葉が好きだといい「僕自身も“変わってる”と言われるのが一番うれしい」と共通点があることに感激していた。
◇山田 裕貴(やまだ・ゆうき)1990年(平2)9月18日生まれ、愛知県出身の31歳。11年、テレビ朝日「海賊戦隊ゴーカイジャー」でデビュー。19年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」で注目を集め、今年も「ちむどんどん」に出演予定。21年の映画「東京リベンジャーズ」では側頭部をそり上げて龍宮寺堅役を好演。今年、出演映画「余命10年」「ハザードランプ」の公開も控えている。血液型O。