渡辺王将 掛川不敗神話ついえる、壮絶シーソーゲーム…力尽きた
2022年01月11日 05:30
芸能
王将戦史上に残るラストのせめぎ合いは、あたかも指運選手権。1手ごとに勝利の女神が盤上を交錯する。壮絶なラストの舞台装置は、70手目で8八に歩を垂らした場面から始まった。昼食休憩時には「攻め合いになって、カウンターを狙う展開にしたい」と不利を自覚していた。91手目の▲4四香で「金を捨てて攻めていったのがよくなかったのか」。リードを奪われた側が逆転するには相手の失着を待つしかない。いわゆる「怪しい攻め手」の敢行だ。8八歩はその役目を存分に果たし、じわじわと立ち位置を入れ替える。AIすら判定に戸惑う究極の異次元ランデブーに引きずり込み、藤井の軽微な緩手を数度にわたって引きずり出す。
チャンスボールは確実に来た。だがそれを芯で捉える余裕は1分将棋の中で皆無だった。「最後は桂が跳ねる手(131手目▲4五桂)が見えていませんでした」。同銀と応じて自王に詰みが発生。悔しすぎる読み抜けに何度も頭を抱えた。
昨年6、7月の棋聖戦5番勝負で藤井に3連敗。「自分のコンディションが良かったのに3連敗するとは思わなかった」と振り返るものの、それが「ショック」だったとは今でも決して口にしない。自身初のタイトル戦ストレート負けを喫する屈辱を味わいながらも「棋聖戦の第2、3局は自分にも勝てる場面があった。そこをベースに準備してきた」と研究を重ねてきた。その成果は確かにあった。この日の激戦はまさに紙一重。記録上は1敗でも、内容は「0・9勝」に値するほど藤井を悩ませた事実は見逃せない。
次局の高槻は得意の先手で迎える。黒星発進でも、追い込まれたわけではない。「(シリーズは)始まったばかり。また、やっていきたい」。感想戦では敗局を明朗に振り返るいつもの渡辺の姿があった。