新装なったヌーベルバーグの傑作でベルモンドを追悼
2022年03月08日 05:00
芸能
その名を一躍とどろかせたのは、やはりジャン=リュック・ゴダール監督(91)と組んだ「勝手にしやがれ」(60年)と「気狂いピエロ」(65年)に他ならない。
この両作品の公開が4月15日の東京・ヒューマントラスト有楽町、シネ・リーブル池袋から順次全国に広がっていく。ともに50年代にフランスで始まった映画運動「ヌーベルバーグ」の金字塔として、世界の映画史に刻まれる作品だ。配給のオンリー・ハーツによれば、ベルモンドの誕生日(4月9日)に合わせて、この時期の公開に踏み切るという。
「勝手にしやがれ」は自動車泥棒の常習犯ミシェル(ベルモンド)が追いかけてきた白バイ警官を射殺してしまうところから物語が動き出す。かつて南仏で一夜を共にした米国人留学生のパトリシア(ジーン・セバーグ)を巻き込んでの逃走劇はミシェル、パトリシア、追う刑事それぞれの思惑もあって思わぬラストへ。公開60周年を記念して2020年に製作された4Kレストア(復元)版が本邦初お目見えとなる。
「(米国のノーベル賞作家)フォークナーって知ってる?」
「いや 誰? 寝た男か?」
「あなたに愛されたい でも同時に もう愛して欲しくない」
「人生で重要なのは二つ 男には女 女には金」
しゃれたセリフにルノアールの絵、モーツァルトの音楽なども散りばめられて、これぞ新しい波!と大興奮。そして、たばこをくわえながら親指で唇をグルリとなぞる、あの有名シーンが出て来るたびに胸が高鳴る。
一方、ゴダール夫人だったアンナ・カリーナと共演した「気狂いピエロ」は、ゴダールの長編10作目にしてヌーベルバーグの頂点に到達したとされる1本。こちらは07年に修復された2Kレストア版での上映だ。
かつての恋人マリアンヌ(アンナ)と一夜を共にしたフェルディナン(ベルモンド)だが、翌朝目覚めると彼女の部屋には男の死体…。ここから始まる2人の逃避行が、あの衝撃のラストまでスリリングに展開していく。カラー映像が美しく、色彩のカーニバルだ。
「映画とは戦場のようなものだ 愛 憎しみ アクション 暴力 死 つまりは感動」
「気の毒がる人って いつも手遅れ」
「たぶん僕は 立ったまま夢を見てる」
これまた劇中の言葉が文学的だ。両作とも字幕は18年に62歳で永眠した寺尾次郎さんの仕事。とりわけ、15年に手掛けた「気狂いピエロ」の新訳は初の試みで、その作業に寄せたインタビューで寺尾さんはこんな風に語っている。
12年に発売された「気狂いピエロ」のDVDを見て「ゴダールへの敬意が一切うかがわれない、いいかげんな字幕でびっくりした覚えがある」と憤慨し、その上で「『少しでも原語に忠実な字幕に近づけ、ゴダールの意図を明確にしよう』と考えながら進めた」
寺尾さんが最晩年に魂を注いだ新訳に彩られて生まれ変わった2作。愛、死、逃避行…今見てもちっとも古臭くないのが不朽の名作といわれるゆえん。ベルモンド、そして寺尾さんよ永遠なれ!