「カムカム」深津絵里 「お母さんを探しにアメリカに行きたい」の絶妙な温度感

2022年03月18日 08:15

芸能

「カムカム」深津絵里 「お母さんを探しにアメリカに行きたい」の絶妙な温度感
連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第97回で、父の英語の辞書を胸に、新たな思いを口にするるい(深津絵里)(C)NHK Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】18日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第97回で、女優・深津絵里(49)が演じる2代目ヒロイン・るいが故郷・岡山の神社で、俳優・オダギリジョー(46)が演じる夫・錠一郎に「お母さんを探しにアメリカに行きたい」と告げる場面があった。るいと母・安子(上白石萌音)の和解はこの朝ドラの柱。るいの心境の変化によって事態が大きく動きだす形だ。
 演出の安達もじり氏は「第97回は、あの神社でのシーンに至るまで、順番に各シーンを撮影して行った。しかし、いずれも断片でしかなく、深津さんは、るいの心情が変わるお芝居をしていないので、『アメリカに行きたい』と言うシーンを演じるのはとても難しかったと思う」と明かす。

 舞台は1994年8月15日の岡山。るいと錠一郎は健一(世良公則)の喫茶店で、ルイ・アームストロングの「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」のレコードを聴いた後、神社へ。娘のひなた(川栄李奈)が大叔父・勇(目黒祐樹)の家で、古い英語の本を読んでいると、窓の外に、そこにいるはずのないラジオ英語講座講師・平川唯一(さだまさし)が現れる。

 安達氏は「不思議な回だった。作家の藤本有紀さんが初期の段階から、このあたりの局面に平川唯一を登場させたいとおっしゃっていた。平川がひなたに向けて発するメッセージがどういうものであるべきか、最後まで試行錯誤した。安子世代の人たちから今の人たちへの贈り物のようなもの、『あなたたちに託した』と伝えて別れを告げていくようなものになれば良いな、と思い至った」と説明する。

 るいと錠一郎が神社を訪れると、るいは父・稔(松村北斗)の姿を見る。稔は戦死しており、平川と同じように、そこにいるはずのない人だ。

 安達氏は「どこかでもう一度、稔を登場させるという話はあったが、このタイミングは藤本さんが台本を書き進めていく中で考えたもので、台本を受けとった時、来た!と思った。松村さんは一度、クランクアップしていたが、今年に入ってから撮影した。松村さんには、本当は一緒にいたかった娘、育てたかった娘が目の前にいるということを意識してもらい、『娘の幸せを願って話してください』とお願いした」と話す。

 稔は生前に安子に話していたような言葉を口にする。「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる」。そして、るいの方を向いて、こう話しかける。「るい。おまえは、そんな世界を生きとるよ」。

 場面が変わり、また戻った後、無言で深く息をするるい。錠一郎から「どないしたん?」と問われると、手提げから、稔の名前が記された英語辞書を取り出し、胸に抱えた上で「錠さん。私、アメリカに行きたい。お母さんを探しにアメリカに行きたい」と告げる。

 安達氏は「その言葉をどのくらいの温度感で言うべきなのか、深津さんと議論しながら撮影した。深津さんは絶妙に演じてくださった。非常に難しかったが、るいのあの言葉が、ふに落ちるようなら、成功だと思う」と話す。

 第97回のポイントは、安子とるいが聴いていた古いラジオと稔の英語辞書の存在。その2つから、るい、ひなたに伝わってくる事柄を、映像、セリフとして具現化したのが、平川と稔の登場だったと言える。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。
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