「カムカム」オダギリジョー 「僕がアメリカに連れて行くから」の唯一無二の芝居
2022年03月22日 08:15
芸能
錠一郎が渡米に尽力する思いを告げた場面が際立つのは、そこに錠一郎の心境の変化と強い決意が表れているからだ。錠一郎はトランペットを吹けなくなって以来、全く仕事に意欲を見せていなかったが、費用がかかる渡米を推進するということは自ら働いて金を稼ぐということになる。
これまで演出を担当して来た安達もじり氏は「初期に錠一郎の人物造形をした時、作家の藤本有紀さんが『途中でトランペットが吹けなくなることにしたい』とおっしゃった。いろいろ議論しながら撮影して来たが、吹けなくなってからの錠一郎の生活をどう描いていくのかという点がいちばん難しかった」と明かす。
14日放送の第93回で、錠一郎がその後もトランペットを保管していて、時折、吹こうと試みていたという事実を明かされ、15日放送の第94回では、錠一郎が算太(濱田岳)のダンスに合わせて玩具のピアノを弾く姿が描かれた。
安達氏は「算太が踊っているのを見てピアノを弾いてしまう場面で、錠一郎の気持ちをうまく表現できたらいい、算太から触発されたことがうまく伝わればいい、と思った」と説明する。
この日放送の第99回で、錠一郎はるいに「音楽活動を再開するよ」と宣言。これからピアノを練習してプロになる意気込みを示した上で「僕がアメリカに連れて行くから」と語りかける。
第99回の演出を担当した橋爪紳一朗氏は「あのシーンは結構長く、いろいろな要素がある。トミー(早乙女太一)が久しぶりに、るいと再会し、ひなた(川栄李奈)、桃太郎(青木柚)と初めて会い、その流れのピークが錠一郎が『僕がアメリカに連れて行くから』と言う場面。最初、明るい感じで入るので、緩急をつけなければならず、そのさじ加減を気にしながら、オダギリさんたちとも話しながら撮影した」と話す。
「僕がアメリカに連れて行くから」と語りかける時の錠一郎の表情が秀逸だ。自らの強い決意を明かしているのに、全く気負いを感じさせず、その優しいまなざしに、るいへの慈愛が満ちあふれている。
橋爪氏は「オダギリさんは唯一無二の存在。演技力の高さはもちろん、話さなくても絵になる格好良さ、年齢を重ねての渋さ、色気がある。独特の雰囲気があり、ほかの役者さんが錠一郎を演じることは想像できない」と語る。
この朝ドラのヒロインは上白石、深津、川栄の3人だが、“ヒーロー”オダギリが加わってこその、物語中盤からの盛り上がりだろう。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。