渡辺明名人 貫録3連覇 永世名人へ“あと2”「平常心」
2022年05月30日 05:00
芸能
「長い戦いだったのでホッとしている。いろいろあったが、目の前の一局に向かってやろうと思った」と振り返る渡辺の口ぶりに、重みが伴った。
戦型は渡辺の先手で角換わり。この日午後、戦いが激しくなった。ノーガードの打ち合いで金銀交換、飛車まで取り合った。飛車の入手では後れを取ったが、自陣に打ち込まれた斎藤飛車の利きを遮る歩の犠打以降、攻守逆転した。
終局後の会見では昨夏、導入した最新AIによる研究に手応えを示した。「それまでの環境が全然ダメと分かった。効率も良くなった」。序盤からリードを奪う展開が増え、2月のスポニチ主催・ALSOK杯王将戦では藤井に4連覇を阻まれて王将を失ったものの、3月の棋王戦では10連覇を達成。
今度は3期連続の名人獲得で、5期が条件となる永世名人へ折り返した。23日に襲位した谷川浩司17世名人(60)。18世の資格保持者・森内俊之九段(51)、19世の羽生善治九段(51)までは原則引退後の襲位が決まっている。そして節目の20世名人争奪レースの先頭に、佐藤と並んで躍り出た。
1952年、現役引退した木村義雄14世名人に贈られて以降、5期が条件になった永世名人。世襲制から実力制へ移り、まだ6人しか誕生していない。
もう2期、されどまだ2期だろうか。6月開幕で来期挑戦権を争うA級順位戦は藤井が初参戦する。前期昇級したばかりのB級1組を10勝2敗で1期通過。10人が総当たりするA級も本命は揺るがない。
「注目は集まると思いますけど…」と渡辺は苦笑いしつつ続けた。「A級はだいぶん煮詰まってから見るようになった。藤井さんがいるから、違う見方をするということはありません」。永世名人への意識については「それは全く考えていません」と言い切った。目前の一局に集中し続けていくことでしか、偉業は達成できないとの平常心。名人18期の大山康晴15世名人の故郷・倉敷で、その面影を見た。