NHKラジオ第2「アナウンサー百年百話」 災害報道の歴史的音源で分かること
2022年06月06日 09:00
芸能
第3回(15日放送)と第4回(22日放送)で取り上げるのが、1964年6月16日に発生した新潟地震(マグニチュード7・5)の際の歴史的音源。当時のNHK新潟放送局のラジオ放送が収められたソノシート(薄型の録音盤)が、NHK放送文化研究所に保管されていたことが分かり、今回の番組企画となった。
制作を担当した小松宏司アナウンサー(45)は「音源を聞くと、新潟地震で困難に陥っている方々に対し、少しずつでも情報を出していこうという先輩たちの苦悩や苦労が分かります。最も印象的な音源は、一人一人に対して訴えかけていく『安否情報』で、これを既に先輩たちがやっていたことに驚きましたし、私たちも今後、そのようなマインドを持って災害報道に取り組まなければいけないと思いました」と語る。
番組では、その安否情報をはじめ、地震発生から1時間後に新潟市内の状況を伝える中継や、気象台から無線機で津波情報を伝える中継などを流す。実際に聞いてみると、現在の災害報道と比べ、アナウンサーの語り口調が硬い印象を受ける。
小松アナは「モードチェンジしたのは、東日本大震災(2011年)かもしれません。この番組の中で武田アナがお伝えすることでもありますが、災害から生命を守る放送にするためには、各個人に届くように、インフォメーションではなくコミュニケーションにする必要があります。今は、津波警報の時も、丁寧な言葉ではなく強い言葉で呼び掛けるようになっています。今回放送する音源は、私たちが取り組んでいることの原点ではありますが、まだインフォメーションの感はあります」と話す。
今も変わらないものもある。現場に赴くことの重要性だ。58年前、新潟地震の発生後に電話が不通になると、アナウンサーが自身で無線機を担ぎ、徒歩で気象台に向かい、関係者の話を伝えていた。
小松アナは「私も地震の現場中継をした経験がありますが、テレビに映っているものは一部分にすぎず、私たちはその周りで起きていることを伝えないといけません。今回、音源を聞いて、先輩たちがそういうことを積み重ね、私たちにリレーして来てくれているのだと感じました」と語る。
番組では、若い世代である小芝の、災害報道に対する関心の高さもうかがえる。小芝は2019年のNHKスペシャルシリーズ「体感 首都直下地震」のドラマに災害報道のアナウンサー役で出演。撮影前、数カ月にわたり、同局のアナウンス室で緊急報道のトレーニングを受けた経験がある。
小松アナは「小芝さんは番組の中で、台本に目を落とさず、自分の言葉で語っています。第2回(8日放送)は小芝さんが司会、武田アナがゲストのように話していて、小芝さんの引き出し方のおかげで、武田アナも『あっという間に時間が過ぎた』と話していたほどです」と明かす。
収録を終えた小芝は「きっと、今の報道より次の報道、また次の報道が、より多くの命を救う報道になっていくんだなと思いました」とコメントしている。
1人の視聴者、聴取者としても、「災害報道のNHK」に対する期待は大きい。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。