松本若菜 デビュー15周年の到達点 連ドラ初主演作「復讐の未亡人」
2022年07月12日 07:30
芸能
「密は女性の武器を使いながら課長に少しずつ毒を盛っていました。ラブシーンの最中も、自分の夫が飛び降りる瞬間がフラッシュバックし、胸に復讐心を抱いています。でも、あのシーンを見て頂く方々には、甘美な部分もお伝えしたかった。私は普通のシーンよりラブシーンの方がものすごくいろいろなことを考えているかもしれません。こうしたらこう見えるんじゃないか…と」
──ラブシーンの前、舌の上に薬を乗せて課長に見せる場面が刺激的でした。
「原作にもあのシーンがあって、監督が『それをやりたい』ということでした。それで、テストの時に『ベー』と舌を出したら、大笑いされたんです。監督がやれと言ったからやったんじゃないですか!?と思ったんですけど、『ずっと舌を出していたらおかしい。出したらすぐにしまってください』と言われました(笑)。面白いシーンになりましたね」
──第1話の最後で、課長への復讐を遂げた密が「復讐って気持ちいい」と言う場面が衝撃的でした。
「あのシーンは難しかったです。台本を読んだ時、どうしよう?と思いました。セリフのトーンは監督と話し合って、何度か撮り直したんです。『復讐って気持ちいい』という言葉は実はシンプルなものではなくて、これから話が進んでいくと、なぜその言葉を言ったのか、本心なのか、ということが分かってくると思います」
──このドラマの撮影が始まる時、連ドラ初主演の重圧はありましたか?
「プレッシャーはありました。勝手に思い込んでいたところもあります。自分がみんなを背負っていくような気持ちでいないと、誰もついてきてくれないし、良い作品はできないんじゃないかと思っていたんです。でも、そんなことはありませんでした(笑)。私が共演者に恵まれているのかもしれませんが、みんなから『大丈夫』『一緒に作って行こう』『おんぶに抱っこで行こう』と言われました」
──主演と言えば「座長」ですが、座長っぽいことは?
「みんなが『座長』と呼んでくれるので、そこは私も冗談まじりに『私も座長だからさ』なんて言ったりもしました(笑)。いつもよりコミュニケーションを取るようにはしましたね。『初めまして。松本若菜です』とあいさつした30分後にキスシーンが始まる役者さんもいたので、あいさつの時によく話をするようにしました。ただ、お芝居を始めてしまえば、やることはいつもと変わらないと思いました」
──映画「愚行録」(2017年)やNHKの大河ドラマ「麒麟がくる」(20年)、フジテレビの連続ドラマ「やんごとなき一族」(22年)などに出演して女優としてステップアップしていることを感じます。
「ありがたいです。マネジャーとも常に、昨年より今年、今年より来年と少しずつステップアップしていけたらいいと話しています。今年は15周年で、まだ半年しかたっていませんが、この半年で既にいろんなものを得た実感があります。15周年が新たなステップアップの年に確実になっています。これからまた未知の世界、未知の役に出合える楽しみがあります」
──今でも、デビュー作「仮面ライダー電王」(07年)を思い出すことはありますか?
「取材でデビューの時の話になると、思い出します。あの1年で学んだことがたくさんありました。あの1年がなければ、こうやって15周年を迎えることもありませんでした。日々勉強だな、と思います」
──15周年で出合った役が、この「復讐の未亡人」の密でした。
「私にとって特別なもので、大事にしています。密は1つの挑戦の役、この15年があったからできた役です。15周年でこの役を演じられてとても良かったです」
──女優としての今後の目標は?
「これまでも大きな目標は定めて来ませんでした。元々、そういうのが私の性格に合っていないんです(笑)。今までと同じように、焦らず、おごらず、マイペースでやっていきます。松本若菜に頂ける役を想像以上なもの、私色の何かをつけ加えたものにして面白い作品ができたらうれしいです」
インタビュー中、終始、笑顔をまじえながら雄弁に語ってくれた。「松本劇場」と言われたドラマの役柄とも今回演じた密とも違う、大人の女性の柔らかなたたずまいが、そこにあった。「復讐の未亡人」はデビュー15周年の到達点ではあるが、決して終着点ではない。多くの人々を魅了する「松本ワールド」は今後ますます広がりを見せるだろう。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。