矢沢永吉 湧き出るメロディーの源にある人生の原風景は父との思い出
2022年08月16日 11:30
芸能
![矢沢永吉 湧き出るメロディーの源にある人生の原風景は父との思い出](/entertainment/news/2022/08/16/jpeg/20220816s00041000043000p_view.webp)
今回の金言と似た言葉を残しているのが、連載第3回でも登場した不世出の米歌手フランク・シナトラだ。
「You only live once, and the way I live, once is enough」(人生は一度だけ。私の生きざまなら一度で十分さ)
日米音楽界の帝王に共通する人生観があったことは興味深い。誰もマネできない“マイ・ウェイ”を貫いた2人だからこその言葉なのだろう。
それにしても矢沢の話は明快ながら深い。神様が「矢沢」と呼びかけ、30年前に戻す条件に「何億円か払えば」とふっかけてるのが妙にリアルで面白い。人生の原風景である父親との思い出のシーンが矢沢自身を形成し、湧き出るメロディーにもつながっているという話は、彼の曲が帯びている独特の切なさの答えを発見した思いだ。それは矢沢の「何事も入り口が大事」という人生観に起因する。
矢沢は57歳の時、一人のショーマンとしてジャズクラブで歌ったことがある。終演後に話を聞いたら「今日はあの頃のジンライムが飲みたいな。緑色のシロップの…」と懐かしそうに語った。
デビューする前。横浜で「ヤマト」というバンドを組んでいた頃。本牧のクラブ「ゴールデンカップ」で演奏していた時だ。
「客席に緑色の奇麗な飲み物があって。あれ何?って聞いたら、ジンライム。いつか飲みたいなって。そしてある時、酔客が“お前、将来当たるぞ”って言ってチップくれたの。それでメンバー連れて、隣の隣にあったバーに入って1杯150円くらい。1000円もらったから一杯ずつ。本物のライムなんて使ってない、緑色のをクッと…。うまかったねえ。これバリバリ飲めるところまで行きたい!って思ったよ」
矢沢は現在もジンライムは必ずシロップ。でも今の時代、ちょっとしたバーでは本物のライムしか置いてないから頼むのも大変。だから都内屈指のバーにも、矢沢のためだけにあの緑色のラベルの瓶が置いてある。
「ニセ物だって分かってるよ。でも、俺の入り口はこっちだから。俺にとっての本物はどこまで行ったって“あの時、飲んだヤツ”なの。どこで入ったかは大事よ。原点をバカにすると、みんな同じで何も考えずに知識や常識で動くようになる。自分が欲しかったもの、本当に欲しいものをストレートに選択できること。それが人生では大切だから」
珠玉の金言、もう一杯いただきました。(阿部 公輔)