山中崇 「ちむどんどん」田良島役 「ちょっと変な人にしたかった」
2022年08月19日 08:20
芸能
「そこまで言えるのは、和彦に対する思いがあるからでしょう。状況として暢子(黒島結菜)が自立するタイミングなので、和彦は経済的に暢子を支えなければならず、仕事を失うわけにいかない。田良島には、自分自身はどうにでもなる、それより未来のある和彦を優先させたい、という思いがある。既に大野愛(飯豊まりえ)もいないし、これで和彦がいなくなったら、東洋新聞で仕事を続けてもおもしろくない、という思いもある。田良島は和彦が部下になってくれてうれしかったし、一緒に仕事をしていて楽しかったのだと思います」
──田良島は和彦に対して愛情を抱いている?
「上司と部下の関係は超えていますね(笑)。和彦は父親を亡くしているので、父親代わりの部分もあるでしょう。撮影が始まる前、田良島をどのように演じるか考えた時、やりたいと思ったのは『部下がやろうとすることを頭ごなしに否定しない上司』でした。何事も、経験し、失敗してもそこから学ぶことが大事です。だから、部下の初期衝動をなるべく肯定してあげる気持ちを持って演じようと思いました。自転車も最初は補助輪を付けて練習し、やがて、それを外して独力で走りだします。良い意味で、補助輪になれれば、と思いました」
──理想の上司像を作れたのではないでしょうか?
「どうですかね…。欠落した部分がありますからね(笑)。田良島は独身で、恋愛に関するアドバイスは全くダメだと思います。大野がフランスに行く時も、和彦との恋愛のことは関係なく、仕事の面だけでフランス行きを勧めました。和彦が大野と別れ暢子に告白して保留にされた時は、笑い飛ばすようなことをしました。理想の上司なら、そうはしないでしょう。ただ、自分が何か失敗した時、一緒に悩んでくれるのはもちろんうれしいけれど、おまえ何やってるんだよ、と笑ってもらって救われることもあります。和彦はあの局面で笑い飛ばしてもらって楽になったんじゃないかと思います」
──視聴者が田良島を理想の上司のように見ることを事前に想定していましたか?
「僕はそのつもりで演じてはいなかったです。ちょっと変な人にしたかった。最初の頃、暢子が東洋新聞で働き始めた時、田良島から注意されたにもかかわらず滑って転ぶシーンがありました。放送ではカットされているんですけど、注意した田良島も自分の席に戻る途中に滑っていたんです。ちょっと抜けている部分があった方が人間として面白い。田良島は割と変な感じの人です」
──変な感じの人が理想の上司のように見えるところが良いと思います。
「そうかもしれないですね(笑)」
──宮沢氷魚さんとのお芝居はいかがですか?
「面白いです。氷魚君はピュアで、僕がお芝居の中でいろんなことをやっても、ちゃんと受けてくれるし、ストレートに返してくれる。それが面白くて、いろんな球を投げたくなる。田良島が和彦に対して愛情を注げたのは、僕が氷魚君に対して、かわいいな、すてきだな、と思うことがたくさんあったからだと思います」
──田良島という役柄から学んだことはありますか?
「田良島はひねくれ者です。台本を読んで、なぜそうなったかを考えた時、幼い頃に戦争で兄を亡くして理不尽なことに対する怒りが根底にあるからだと思いました。田良島は簡単に人を信じない。けれど、その一方で、人を信じたいと思っている。和彦、大野と出会ってシンパシーを感じ、愛情を注ぐことができた。人を信じることができた。人を信じることの大切さを田良島に教えてもらいました」
──役者としての今後の抱負をお聞かせください。
「作品を見て頂いて、何日か後、何カ月か後、何年か後に、ふと、あんな人がいたな…と思い出して頂けるような人物を演じていきたい。どこかで生き続けるような人物を演じていきたいと思います」
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。