円楽さん 記者に“独演会” 車中で2時間、腹黒キャラでのリップサービス

2022年10月01日 05:30

芸能

円楽さん 記者に“独演会” 車中で2時間、腹黒キャラでのリップサービス
16年不倫騒動も話題になった三遊亭円楽さん
 【三遊亭円楽さん死去 】 軽妙洒脱(けいみょうしゃだつ)。粋な師匠だった。不倫騒動で世間を騒がせた16年6月、謝罪会見で報道陣に真摯(しんし)に対応したことが話題になった。「今回の騒動とかけまして、東京湾を出て行った船と解きます。(その心は)コウカイの真っ最中」というリップサービスで会場を笑いで包んだ。これも報道陣から頼まれて謎かけを披露したもので、答えたのも芸人のさがだった。
 実は、その会見直後に女性としっぽり密会している現場に偶然出くわしたことがあった。後で分かったのだが、たまたま行きつけのバーが同じだった。最初は気付かなかったが、カウンター席で隣だから話し声も自然と聞こえてくる。経済論から艶っぽい話まで、女性は円楽さんのトークを真剣に聞き入っていた。

 あいさつをせねばと思い、女性を見送って円楽さんが1人になったタイミングで話しかけると、今度はこちらに向けての独演会が始まった。

 「不倫ではないですよ。そんなにボクが港から出て行ってどうするんですか?もう航海しておりません。謎かけも本当はしたくなかったけど頼まれたらやりますよ、そりゃね」。

 その後は店から場所を移して、運転手に待ってもらいつつ車の中で2人きり。面識のない記者の直撃取材は断ってもいいはずなのに、こちらがエピソードに引き込まれて笑い出すと興に乗ってきたのか止まらない。本音満載の独演会は2時間も続いた。

 「腹黒と言われてますけど、世間の人も期待している。歌丸師匠とのやりとりも楽しんでもらわないとね。キャラがある方が分かりやすいし、ほかのメンバーもやりやすい。本当のことを言うと、笑点にはボクがいないとダメでしょ、やっぱりね」。そんなことを言いながらイタズラっぽく笑った。わざわざ腹黒キャラでのリップサービスだった。

 この直撃取材の件は、師匠の言葉を信じて記事にすることもなかった。その縁で何かあるたびに連絡をさせてもらった。当時、東京に赴任したばかりだった大阪弁の記者の質問にも「それはね…」といつも丁寧に応じてくれた。本当に感謝の言葉しかない。

 東西の噺(はなし)家を集めて福岡で「博多・天神落語まつり」を開催できたのも、その人望ゆえだ。高座はもちろんのこと、また熱く語る姿が見たかった。気遣いの人であり、テレビスターだった円楽さん。腹黒とは真逆で「座布団1枚」の世界で愛されたのも、どんな状況でも、客を楽しませる粋な“心意気”を持っていたからにほかならない。合掌。 (文化社会部長 森俊幸)
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