「舞いあがれ!」たこ焼きパーティー場面 制作統括「結構ハイブロー」
2022年11月08日 08:30
芸能
パーティーの場面は明るい雰囲気で始まる。ところが、途中から全く別の様相を帯びて来る。部員の鶴田葵(足立英)、玉本淳(細川岳)、由良冬子(吉谷彩子)、刈谷博文(高杉真宙)がそれぞれ人力飛行機「スワン号」への思いを語ったからだ。期せずしてみんなの熱い思いを聞くことになった舞は感極まって目から涙をあふれさせる。
楽しい場面を自然な流れで感動的な場面へと変化させる巧みな脚本だ。
熊野氏は「たこ焼きパーティーでみんなが本番を前に盛り上がるシーンになるかと思いきや、舞がみんなの思いを一つ一つ受け止めていくシーンになった。結構ハイブローだと思う。そういうふうに組み立てていく桑原さんの脚本には独特の面白さがある」と語る。
このドラマの第1回から第27回までを見て感じるのは脚本の繊細さだ。物語の展開を良くするために急ぎそうなところを急いでおらず、物語を盛り上げるために大きく振りかぶりそうなところも適度な振りかぶりにとどめている。
熊野氏は「桑原さんは登場人物それぞれの気持ちを丁寧に描いている。セリフにするところとセリフにしないところを含めて独特の味わいがある。言葉にしない方が良いところはセリフせず、役者さんのお芝居に任せてあえて語らないところがある。特に難しい言葉を使うわけではなく、秘められていた気持ちをすっと易しい言葉で表す。ドラマチックなことがそんなに多く起きるわけではない。ささやかな日常の中で感じることにしっかりと言葉を与えている。登場人物の気持ちが分かる脚本にしてくれている」と話す。
ドラマはストーリー展開も大事だが、登場人物たちの多様で微妙な心の動きを味わえることも大切だということを実感できる作品になっている。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。