「鎌倉殿の13人」承久の乱 後鳥羽上皇の狙いは義時だけ?時代考証・木下竜馬氏も称賛 重層的な三谷脚本

2022年12月23日 11:00

芸能

「鎌倉殿の13人」承久の乱 後鳥羽上皇の狙いは義時だけ?時代考証・木下竜馬氏も称賛 重層的な三谷脚本
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」最終回(第48話)。後鳥羽上皇(尾上松也)(C)NHK Photo By 提供写真
 脚本・三谷幸喜氏(61)と主演・小栗旬(39)がタッグを組み、視聴者に驚きをもたらし続けたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は今月18日、最終回(第48回)を迎え、完結した。主人公・北条義時の最期を大河史に刻み込んだ衝撃的なラストシーンに、SNS上は放心&号泣。ドラマの時代考証の一翼を担う東京大学史料編纂所助教の木下竜馬氏が義時と朝廷の“最終決戦”「承久の乱」(1221年、承久3年)を解説する。
 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 最終回は「報いの時」。北条義時(小栗)は北条泰時(坂口健太郎)を鎌倉方の総大将に据え、朝廷との“最終決戦”「承久の乱」(1221年、承久3年)に勝利。後鳥羽上皇(尾上松也)を隠岐島へ流罪とした。

 「承久の乱」のポイントは後鳥羽上皇による追討対象が(1)義時だけなのか(2)鎌倉幕府全体なのか。今作は第47回「ある朝敵、ある演説」(12月11日)、後鳥羽上皇が出した院宣に対し、義時は「これは、鎌倉に攻め込むためのものではない。私を追討せよという院宣だ」「私一人のために、鎌倉を灰にすることはできんということだ」と自分の命と引き換えに、戦を回避し、鎌倉を守る覚悟を決めた。これが今作の「政子の大演説」につがなり、義時と視聴者の涙を誘った。

 なお、時代考証の会議にはプロデューサー陣が参加。時代考証チーム(坂井孝一氏・長村祥知氏・木下氏)と三谷氏の直接のやり取りはない。

 後鳥羽上皇の目的についての見解は、研究者の間でも分かれる。旧来の通説では、後鳥羽の狙いは討幕(幕府全体の打倒)だとされてきた。ドラマの時代考証の一人、長村氏は約10年前に「後鳥羽の狙い=義時単独説」を提唱。単純な討幕説を批判した。

 「長村さんは軍記物のバージョン間の違いや後世の言説を検討して、朝廷VS幕府という構図は後から出てきたもので、後鳥羽VS義時という構図の方がより古く、承久の乱当時の真実を伝えていると主張しました。昔は、後醍醐天皇が鎌倉幕府を倒したように、後鳥羽上皇の挙兵も武家政治を否定するものとシンプルに考えられていましたが、長村さんは後鳥羽の狙いは義時の排除で、必ずしも幕府全体を滅ぼそうとするものではなかったのに、それを受けた政子らが幕府全体への攻撃だとすり替えたのだ、と問題提起し、議論が深まるきっかけをつくりました」

 ただ、木下氏の立場は「長村説にもちょっと疑問を持っています。これは本人にも伝えています(笑)。義時の首だけで事が収まるとは考えにくいところがありまして。乱発生当時、慈円は『もし義時がやられたら、三寅の身も危うい』と心配しています。追討令の文面では義時追討となっていますが、少なくとも、政子や三寅、その他幕府首脳部も排除の対象だったのではないでしょうか。義時追討の名目の裏にある、後鳥羽の戦略や意図を考える必要があります。坂井さんが後鳥羽の目的は『敵対的M&A(合併・買収)』なんだと現代風におっしゃっていて、それも面白い。首脳部を一掃して幕府を実質的に解体し、御家人や守護を後鳥羽の傘下に直接収める、ということもあり得たのでは」と解説。慈円は三寅の一族で、三寅(のちの藤原頼経)の4代鎌倉殿擁立にも一枚噛んでいる。

 「承久の乱」も「両説を巧みにミックスした作劇。義時単独説をベースにしながら、政子の演説を挟んで幕府全体に関わる問題にし、幕府VS朝廷の構図に持っていく重層的なストーリーになっています。今作を通じて驚かされることが何度もありましたが、『承久の乱』も流石は歴史に造詣の深い三谷さんだと脱帽しました」と称賛した。

 今作は上総広常(佐藤浩市)の「手習いと祈願書」、平宗盛(小泉孝太郎)の「腰越状」代筆、日本三大仇討ちの一つ「曽我兄弟の仇討ち」(曽我事件)は「敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ち」など、三谷氏が史実と創作を鮮やかなまでにミックス。“神回”“三谷マジック”“神がかる新解釈”の連発に、歴史ファンからも唸る声が相次いだ。

 史実と創作の二重構造はもちろん、史実に残る「諸説」「旧説と新説」の盛り込み方も“匠の技”だった。

 タイトルの基になった「13人の合議制」だと、旧説(頼家=暗君→13人の合議制=頼家の政治関与を排除するシステム)と新説(訴訟の取次は13人に限るが、最終判断は頼家が行う)をぶつけ、木下氏は「ドラマに緊張感をもたらしたと思います」。鎌倉最大のミステリーにして鎌倉最大の悲劇「実朝暗殺」は「ドラマの着地点としては公暁単独犯になっていますが、最初に三浦義村が焚きつけて、義時も黙認。源仲章が人違いで斬られたのも含めて、諸説(義時黒幕説、義村黒幕説など)がミックスされています」。大河ドラマの時代考証は初挑戦となったが「歴史ドラマだからこその『構想力』に触れることができ、歴史学者として非常に面白く、貴重な経験をさせていただきました。大変ありがたく思っています」と感謝した。

 ◇木下 竜馬(きのした・りょうま)1987年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所助教。専門は中世法制史、鎌倉幕府。共著に「鎌倉幕府と室町幕府―最新研究でわかった実像―」(光文社新書)など。

この記事のフォト

【楽天】オススメアイテム