藤井聡太王将「違った景色求めて」頂上目指し初心で挑む初の防衛戦 まだ“森林限界”手前
2023年01月02日 06:01
芸能
そして今回羽生を迎え撃つ。羽生との初のタイトル戦を前に、藤井が選んだ言葉はくしくも「違った景色」だった。
サッカーW杯カタール大会で過去3度阻まれた8強の壁に挑み、またもはね返された。その日本代表が合言葉にし、目標として掲げた「新しい景色」。それを意識したのか?と問うと「いやいや」と照れ笑いして続けた。
「昨年と違った景色が見られるように頑張りたい。(重視したいのは)結果そのものより内容。棋譜に表れる指し手だけではなく、自分の読みや考えを含めた景色のことです」。手を読み進めるには、相手の狙いも推し量らないといけない。羽生との読み比べの先にどんな局面が待ち受けるのか、妥協なく自身と向き合う決意を示した。
昨年渡辺から王将位を奪い、史上最年少5冠に輝いた第4局の翌日。対局会場の東京都立川市から望む富士山を登山に例えて「今何合目か?」と問われると「将棋は奥の深いゲームでまだ頂上は見えない。森林限界の手前くらい。上の方には行けてません」と応じた。
森林限界とは、低温や水不足のため、森林の生育が不可能となる地点を指し、富士山で言えば5合目、標高2300メートル付近。以来1年、保持する4冠全てを防衛。今回、対局内容も含めて羽生を上回れば、さらに違った新しい景色が望めることは間違いない。
7番勝負を前に、心境や意欲を色紙に毛筆で記す揮毫(きごう)を「初心」とした。5歳から通った将棋教室には羽生による定跡書「羽生の頭脳」が置いてあった。
「子供の頃からずっと見てきた方とのタイトル戦。初心に返って、純粋に局面のことを考えたい。楽しみながらできればと思います」
2月からは年度内6冠を目指して棋王戦とのダブルタイトル戦も始まる。
新春、真っさらな気持ちで向かう将棋盤に藤井はどんな指し手を重ねるのだろうか。
◇藤井 聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身の20歳。16年に14歳2カ月の史上最年少で四段昇段、史上5人目の中学生棋士となる。獲得タイトルは通算11期。趣味は鉄道、チェス。杉本昌隆八段門下。
≪連勝記録12に更新なるか≫タイトル初挑戦からのシリーズ11連勝は、すでに戦前戦後に活躍した木村義雄14世名人の5連勝を抜き、新記録を更新中。その起点となった20年度棋聖戦は、新型コロナによる対局の中断明けだった。3勝1敗で奪取した5番勝負の対局場が、感染対策のため地方ではなく東西の将棋会館になったことで「普段に近い環境。タイトル戦の環境に徐々に慣れることができた」と回想する。そして今回、羽生までも退けて記録を更新するのか、注目だ。