「どうする家康」家康視点の桶狭間 演出も感嘆 古沢脚本の魅力「痛快な構成」「緻密な計算に転がされて」
2023年01月15日 12:00
芸能
「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河“初出演”にして初主演となる。
第1回は「どうする桶狭間」。サブタイトル通り、初回から「桶狭間の戦い」(永禄3年、1560年)が描かれ、今川義元(野村萬斎)の首を取った織田信長(岡田准一)が進軍。大高城への兵糧入れに成功した松平元康(松本潤)だったが、いきなり“どうする?”を突き付けられた。
演出統括の加藤氏は「どんな物語にもサイドストーリーというものがあります。今回の『どうする家康』第1回は、桶狭間のいわばサイドストーリー。大高城に『お米を入れるだけ』と兵糧入れをする家康が奮闘する一方で、“日本史上有数の大事件”桶狭間が起きていく。その時、家康が身に着けていたのが今川義元から拝領したという黄金の具足、これもいわばサイドストーリーです。そして、いずれもが史実として語られている。古沢さんの描く『どうする家康』の魅力は、そういった史実として残されたサイドストーリーへの着眼が周到に歴史の本流へと導かれ、合流していく構成の痛快さにあると思います。ベースには丹念に調べた史料があり、その史料に登場する人々への愛がある。だから、古沢さんの脚本は登場人物が魅力的になるのだと思います」と“家康視点の桶狭間”の描写に感嘆。
忠臣・酒井忠次(大森南朋)十八番の宴会芸「えびすくい」も「若き家康が生まれ故郷・三河に触れる最高のタイミングで描かれる。何とも言えない可笑しさと哀愁が三河という土地と同時に視聴者にインプットされるように計算されていて、三河の人々すべてが愛おしくなる。うまいなぁ…と思いますね。それが誰にも伝わるように書かれているからこそ、俳優もスタッフも『よし、やってやろう』という一致団結した一発芸で盛り上がる。笑っているうちに、その三河の愛すべき、少々心配な(笑)人々とともに、歴史の大舞台・桶狭間にあっという間に巻き込まれていく…緻密な計算に転がされている感じです。サイドストーリーがいつの間にか本流を飲み込んでいく。人質生活から始まる徳川家康の人生を、そういうエンターテインメントとして捉える古沢さんの着眼は本当に素晴らしいと思います」と称賛してやまない。
「脚本が明確にエンターテインメントとして提示されているから、『えびすくい』や(家康と瀬名の)『かくれんぼ』も俳優は安心して思い切り演じられる。はしゃぐ大人を見る楽しさが撮影現場にあります。様々な困難に『どうする!?』と立ち向かっていくにはエンターテインメントが必要なんだ、というのは古沢脚本が今の時代に送る力強いメッセージなんだと思います」
大高城への兵糧入れからラストへの緊迫感は、シナリオハンティング(シナハン、脚本作りのための取材)から生まれた。制作統括の磯智明チーフ・プロデューサー(CP)によると、古沢氏とスタッフは2021年5月から約半年、家康ゆかりの地を訪問。ほぼ全部を網羅した。
劇中の3DCGでも描かれたが、大高城は当時、海に面していた。磯CPは「織田軍が周りに砦を造って取り囲み、いわば陸の孤島のようなもの。そこへ兵糧を入れることが、いかに過酷なミッションだったか。家康たちの差し迫った、抜き差しならない状況は、実際に大高城(名古屋市緑区)に登らなかったら、あれほどリアルに表現できなかったと思います。史料だけでは分からない、家康が目にした、感じた風景を追体験して、現地で歴史に詳しい先生にお話をうかがって初めて身をもって理解できました」と述懐。
「しかも、大高城は桶狭間に近く(桶狭間古戦場公園も名古屋市緑区)、義元が討たれたことを家康はリアルタイムで知り得たのかということも、みんなで話し合いました。当時の天候は荒れていたので、事態を把握するのは難しかったんじゃないか、家康と家臣団は不安な時間を過ごしたんじゃないか、と。嵐が去った時、信長がそこにいるという家康の恐怖感も、現地に行って初めて想像できました。シナハンで議論したことが構想の幹になって、台本に肉付けされて、演出やキャストのアイデアが加わって映像になっていきます」
今後も古沢氏の筆に期待したい。