新・宮本武蔵の舞台「巌流島」 演出・堤幸彦氏「恋愛ドラマなんじゃないかと思える」
2023年01月20日 09:00
芸能
「今回はシンプルで真面目な舞台にする。途中はなるべく抑えた形にし、対決の場面はチャンバラ劇として盛り上げたい。武蔵と小次郎は若い頃、偶然に出会う。よく恋愛もので、男女が道ですれ違って一生の相手だと感じることがあるが、武蔵と小次郎は会った瞬間に『こいつが究極の敵だ。倒さなければ剣術の最終地点に行けない』と感じる。ものすごい剣術使いの物語でありながら、私には恋愛ドラマなんじゃないかと思える」
それは男女の「一目惚れ」の物語ではなく男同士の「一目殺し」の物語と言えるかもしれない。
「そう、『一目殺し』だ。武蔵は剣術家として剛健だが、自分の実力を正当に評価する者が現れず、時代の流れにも合わなくなっている。小次郎は実直だが、上昇志向を持ち、平静な世に合わせて上り詰めていこうとしている。周りには武蔵を思う者、小次郎を思う者、2人を利用しようとする者がいる。ライフスタイルが違う2人は互いに究極の敵だと意識しつつ、ともに時代に疎まれ、巨悪のようなものに巻き込まれていく。脚本のマキノさんはよくこんな重層的で面白いストーリーを考えたと思う。演出の難度は大変高いが、やりがいがある」
この舞台で描かれる物語はかつて吉川英治さんが書いた小説や、萬屋錦之介さんが武蔵、高倉健さんが小次郎を演じた映画などとは色合いが全く異なるようだ。
「巌流島の戦いで、これまで描かれたような『遅いぞ、武蔵』『小次郎、敗れたり』という場面はない。武蔵の二刀流、小次郎の長い刀は生きているが、武蔵が遅刻することはなく小次郎がいらだつこともない。戦いは2人を疎ましく思う側がプロデュースしたもので、2人ははめられたと言っても過言ではない。2人がその状況をどう突破して、純粋に究極の相手と向き合うかというところが大きな流れになる」
もちろん、2人が戦う場面が最高の見どころ。殺陣は、アクションコーディネーターの諸鍛冶裕太氏が担当する。
「非常にオーソドックスでありながら、ものすごくスピード感がある。細かく計算された殺陣で、1手1手が決められている。手が崩れれば、けがをするので、本当の真剣勝負のような感じだ。スタッフには、効果音を出すプロ中のプロもいる。刀と刀がぶつかる時の『チャリン』『シャリン』という音を嫌う演出家もいるが、私は少年の頃から自分の脳裏に刻まれたチャンバラをエンタメとしてしっかりやりたい」
斬新かつ娯楽性の高い作品になりそうだ。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。