【芸人イチオシ】柳亭小痴楽 追いかけ続ける“オヤジ”の背中「落語は学んでいないが、生き様は学んだ」
2023年02月17日 08:00
芸能
教育も独特だった。けんかをすると、それをしたこと自体ではなく「両者がどう矛を収めるのか、そこまで考えてけんかしたのか」としかられた。「とにかく筋を通すことを口酸っぱく言われた。頭ごなしにしかりつけられたことはありませんでしたね」と当時を回想。その教えは今でも自身の行動原理にもなっているという。
もともと家庭内で落語と触れる機会はなかったが、15歳の時に偶然耳にした八代目春風亭柳枝の「花色木綿」を聞き、その語り口に一気に引き込まれた。父に入門しようとした矢先の2005年、痴楽さんが脳幹出血で倒れてしまった。その後09年に死去。結局、父からは落語についてほとんど学ぶことはなかった。
気っ風の良い軽妙な語り口が人気の痴楽さんの落語。当然、音源などで聞くことはできるが「オヤジの落語は好きじゃない」と語る。「自分はその人の落語が好きなら、その人柄も好きになってしまう。でも唯一当てはまらないのが父」とニヤリと笑う。人を褒めすぎないのも小痴楽の芸風だ。
そんな“小痴楽節”が申し分なく発揮されるのが古典落語の世界。中でも“18禁”な師匠ネタをマクラに、自由なアレンジを加えた「粗忽長屋」は一級品。「落語って1つの生き方だと思うんです。ダメな人間の中にも筋や人情が詰まっている」。それは道楽じみた生活の中にも一本筋がある父の生き様のよう。「ようするに、バカの与太郎を語りたいんです。しょせん落語家は底辺。でも話さえ面白ければ、それでいいんです」。
本人は嫌がるかもしれないが、小気味の良い語り口から発されるドキりとする一言は、やはり痴楽さんを思わせる節がある。「(2歳の)息子が落語家になりたいなんて言い出したら許さない。“厳しいぞ、お前の父は”とね」。そう言いながらきっと、憧れの生き様は最愛の長男にも受け継がれていくのだろう。やはり小痴楽家の教育は父と同じく素直じゃなく、愛と皮肉がこもっている。
◇柳亭 小痴楽(りゅうてい・こちらく)1988年(昭63)12月13日生まれ、東京都出身の34歳。05年に初高座。09年に二ツ目昇進。15年にNHK新人落語大賞の決勝進出。19年に真打昇進。神田伯山、桂宮治らと若手落語・講談ユニット「成金」のメンバーとして活躍した。現在放送中のフジテレビ系連続ドラマ「三千円の使いかた」ではナレーションを担当。