蝶花楼桃花 出演者全員が女性の寄席公演 「歴史的瞬間を見逃さないで」
2023年02月27日 08:00
芸能
「年末に浅草演芸ホールの松倉由幸社長から、2度目のトリを夜の部で取らないかという話をいただきました。せっかくなら、いつもと違うものはできないだろうかと相談したところ、柔軟な社長が私の提案に乗ってくださいました」
寄席の出演者は従来、男性が中心。桃花は過去、高座に上がった際、女性の落語を聞きたがらない客が席を立つ姿を目の当たりにしている。
「出演者が女性だけということに拒否反応を示す方はいらっしゃるでしょう。お客さんに来ていただけるかという不安要素はあります。でも、状況を変えていくきっかけの一つになればいいと思います。理事会で懸念する方もいらっしゃいましたが、女性が増えたことを知ってもらうための顔見世興行のようなものにしたいという話をしたところ、満場一致で了承していただきました」
実際にこの10年で女性の落語家は増加。桃花は落語協会で10人目の女性真打ちで、現在は後輩が30人~40人いるという。
「この企画は5年前だったら、できなかったと思います。連日、女性の出演者が15人くらい必要で、交互出演や代演も含めると、40人くらい確保しておかないといけません。今回のように女性だけでできるのは、単純に、女性の人数が増えたからという面もあります」
公演には三遊亭歌る多、古今亭菊千代、林家きく姫ら落語家のほか、漫才のニックス、講談の一龍斎貞鏡、三味線漫談の林家あずみら多彩な顔ぶれが出演する。
「余興のコーナーも作ってもらいました。何をするかは内緒ですが、新しいことをやろうと思っています。落語家は基本的に寄席で落語以外の芸をやることはないので、これも浅草演芸ホールさんの英断で、画期的なことです」
この公演は特別興行ではなく通常興行なので、観客は昼の部を見た流れで楽しむことができる。
「お得です。柳家三三師匠、五街道雲助師匠、柳家権太楼師匠たちの落語を聴いてから見ることができます。『桃組』は華やかな公演になるのは間違いありません。私自身、この顔ぶれを見ると、うれしくなります。全員が女性と言っても、それぞれアプローチの仕方が違います。女性目線の新作をやる人、古典の改作をやる人、あえて男性と同じようにやる人…。新たな発見や驚きがあると思います。歴史的瞬間です」
自身は昨年7月以来、2回目のトリ。連日、歴史的興行を締めくくる大任を担うことになる。
「真打ちに昇進して短いのに2回目のトリをやらせてもらえるのは、評価していただいているからだと思いたいです。夜席はじっくり聴いてもらうことが多いんですが、今回は初めての試みなので、お祭り感を出したい。とにかく明るく、みなさんに楽しんで帰っていただきたいと思っています」
開幕まであとわずか。3月1日からの10日間は今後の試金石にもなる。
「今は『珍しい』と思われることが『当たり前』と思われるようにしたいです。いずれは『桃組』に男性が入ってもらってもいい。まだ相談はしていないんですけど、例えば、ほかの寄席では『桜組』を作って出演者を男女半々にするとか、これまでやっていないことを模索していきたいです。新しい動きが寄席全体に広がることを夢見ています」
その始動の歴史的瞬間を見逃すわけにはいかない。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。