「らんまん」演出・渡邊良雄氏 「浜辺美波さんはおたく的素養も的確に表現」
2023年05月11日 08:30
芸能
「20代の美しい女優さんのランキングで必ず1位、2位になるような人というイメージがありました。実はあるドラマでキャスティングしたいと思ったのですが、その時はスケジュールの関係で実現しませんでした。寿恵子に対する万太郎の『どんな花よりも美しい』というセリフのイメージに合致する役者さんは誰かと言えば間違いなく浜辺さんになります。浜辺さんはシリアスなキャラクターも、ドラマ・映画の『賭ケグルイ』のような振り切ったキャラクターも演じられます。寿恵子の微妙な心情を表現できる役者さんが必要だったので、ぜひ浜辺さんにお願いしたいと思いました」
──撮影が始まってからの印象は?
「まず衣装合わせで、着物と日本髪の姿を見た時、こんなにしっくりくるんだ!と驚きました。『このままモノクロで撮影して明治時代の◯◯小町の写真と説明しても十分に通用する』と言う人もいたほどで、良い意味での古風さを持った役者さんだと思いました。寿恵子の重要な部分として芯の強さがありますが、そういう部分も実際にお持ちになっている感じがお芝居の中で見えます。若くて跳ねる部分、逆に落ち着いて心情を相手に伝える部分をうまく表現していただいています。あの年齢で、あそこまで表現できる人はなかなかいないと思います」
──初めての朝ドラ出演で緊張した様子はありましたか?
「たぶん緊張はされていたと思います。ただ、この作品に参加するのを楽しみにしていたようですし、神木さんとも共演した経験があるので、緊張よりも現場でお芝居することの楽しみの方が勝っている印象でした」
──どのように演出しているのですか?
「浜辺さんは20代前半としてはとても落ち着いていて大人の女性だと思います。物事に対する考えがしっかりしていて、発言もはっきりしています。寿恵子は10代の設定で登場するので、少し少女っぽく、少し子供っぽくやってくださいとお願いしました。万太郎は草花にただならぬ興味を持つ人で、草花おたくですが、寿恵子は滝沢馬琴の『八犬伝』にただならぬ興味を持っていて、ある種のおたく的素養があるので、おたく女子っぽい感じを臆せずにやっていただくようにしています」
──浜辺さんと神木さんのコンビは映画「屍人荘の殺人」(2019年)で絶妙な芝居を見せましたが、この作品の現場ではどうですか?
「ずっと先に、寿恵子の部屋で、寿恵子が『八犬伝』を手に取ろうとして万太郎の手に触れるシーンがあります。驚いて手を離しますが、その後にお互いの手が近づいて最後は握り合います。いろんなアングルから撮らなければいけなかったので、お二人にそのお芝居を何回かやってもらいました。気恥ずかしくなるようなシーンだったと思いますが、神木さんは『以前にも僕は浜辺さんとこういうシーンをやっているから大丈夫ですよ』と言い、浜辺さんは笑って応じていました。一度共演してお互いのことを分かっている二人だからこそ、気恥ずかしくなるようなシーンでもほどよい距離感のお芝居ができるのだと思いました」
──二人の信頼関係がこの作品の強みになっていますか?
「それは大きいと思います。神木さんも浜辺さんもキャリアが長く、いろんな現場を経験されていて、懐が深い。われわれは台本、リハーサル、ドライという過程でいろいろなお芝居をお願いしますが、お二人にはそれ以前に、神木さんがこういうお芝居をしたら浜辺さんはこういうお芝居を返す、浜辺さんがこういうお芝居をしたら神木さんはこういうお芝居を返すという下地を感じます。お互いに相手のお芝居への信頼があり、相手のお芝居を受け止めるだけの技量がある。目指すお芝居の方向性が同じだから、相手のお芝居に対して違和感がない。演出していて、そういう関係性を感じます」
──浜辺さんの芝居の魅力は?
「寿恵子は明治時代の女性なので、時代劇的なお芝居にとらわれてしまうかもしれないという心配がありましたが、杞憂に終わりました。われわれが望んだ、意識的に先を見ているような女性、おたく的素養のある女性、現代的な感じの女性というキャラクターを的確に表現していただいています。寿恵子は登場時は現在で言うと女子高生くらいの年齢なので、母親から注意されると、ちょっとすねたり、ほおをふくらませたりします。そういうシーンをとてもシンプルに演じていただいています」
──寿恵子の晩年まで演じることになりますか?
「浜辺さんがこれまで演じた役の中で最高齢になると思います。声のトーン、テンポを変えていただくことになるでしょうが、そこに不安は感じていません。浜辺さんは実年齢より大人の感じがするので、意外に自然にいけると思います」
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。