田中哲司 格好悪い役こそ絶好のチャンス 私生活では仲間由紀恵と双子の育児「子供の事ばかり考えてます」

2023年06月18日 11:00

芸能

田中哲司 格好悪い役こそ絶好のチャンス 私生活では仲間由紀恵と双子の育児「子供の事ばかり考えてます」
味のある演技と存在感で、悪役からコミカルな役まで幅広い役柄を演じる田中哲司(撮影・木村 揚輔) Photo By スポニチ
 【俺の顔】 冷徹、不気味、憎たらしい…。俳優の田中哲司(57)は悪役のイメージが強い。かと思えばコミカルな役もこなす。味のある演技と存在感で作品に厚みをもたらしている。「いい意味で力の抜けた演技に憧れる」。しなやかに役を生きている。(望月 清香)
 1メートル82の長身と口元のひげから大人の色気と渋みが漂う。悪役を演じることが多いためか、若い頃は「目の奥が笑っていない」と言われることが多かったという。「今はいい人もできます。目の奥を笑わすことができます。めっちゃ得意ですから」。いたずらっぽく笑うと目尻いっぱいにしわが寄った。

 高校卒業後、ミュージシャンを夢見て音楽系の専門学校に進学。「大して楽器も弾けないのにとにかく田舎を離れたかった。ちゃらちゃらした考え方です」。1年で中退し、日大芸術学部に入学。そこで演劇に出合う。「生身のお客さんを前にしてやるから後戻りができない」。自らの演技が目の前の観客の心を揺さぶることへの、純粋な喜びもあった。ライブならではの緊張感に取りつかれ、役者の世界に飛び込んだ。

 ただ役者としての仕事だけでは到底食べていけなかった。当時を支えたアドバイスなどを聞くと「そんな言葉をかけてもらえるほどの存在ではなかった。職業を聞かれても役者と言えなかった」と振り返る。先の見えない毎日で田中を引き留めたのは、後戻りできないという思いだった。「専門学校のお金も予備校のお金も出してもらった。おまけに授業料の高い大学に入った。親に迷惑をかけているので、後に引けないという思いが一番だった」。蜷川幸雄氏や串田和美氏ら名だたる演出家の舞台でキャリアを重ねていった。

 転機と語るのが、2011年から3度にわたって上演された長塚圭史氏演出の舞台「浮標」。田中は死期の迫る結核の妻を看病する主人公を演じた。舞台は4時間近くほぼしゃべりっぱなし。セリフ量はすさまじく、演じながら何度も頭が真っ白になった。「本当に難易度が高くつらい役だった。でもそれを乗り越えた自分がいるから他の作品も乗り越えられると思える」。以来、役者として糧となっている。

 舞台の傍ら、映画やドラマにも多数出演。冷酷な上司から優しいお父さんまで幅広く演じているが、一番好きなのが格好悪い役だ。現在放送中のNHK連続テレビ小説「らんまん」では東大植物学教室の助教授を演じている。教授役は田中より年下の要潤で「このちょっと弱い感じが好きです」と話す。「格好良い役は制約があるけど、格好悪い役はいろいろな演技ができる。自由度が高いのがやっぱり楽しいですね」。格好悪さの中にこそ、演技の喜びがある。本作でも嫌みで器の小さな男の感情の機微を表現し、憎めない人間味あるキャラクターを作り上げた。

 「役作り的なことをしないように心がけています。家で考えたものを現場に持ち込んだら柔軟性がなくなる。なるべく無防備に」。いろいろな演技パターンを考えた上で、それにこだわらない。「共演者と息の合った演技ができた時が一番楽しい。それだけでいいんです」と現場での化学反応を楽しんでいる。

 私生活では、14年に女優の仲間由紀恵と結婚。18年には双子の男の子のパパとなった。「子供のことばかり考えてます。買い物も気づいたら子供のばかり。この間家にあるのと全く同じTシャツを買っちゃいました」。失敗談を口早にどこかうれしそうに明かす。大人の色気の中に少年のような純粋さがにじんだ。

 ◇田中 哲司(たなか・てつし)1966年(昭41)2月18日生まれ、三重県出身の57歳。95年、蜷川幸雄氏演出の「ハムレット」をきっかけに多数の作品に出演。15年に舞台「RED レッド」で紀伊国屋演劇賞を受賞した。出演作に14年スタートのテレビ朝日ドラマ「緊急取調室」シリーズ、19年の映画「新聞記者」など。血液型A。

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