三田佳子 竹山洋さん遺作オーディオドラマ主演 「やはり聴いてもらいたかった」
2023年06月22日 09:00
芸能
三田は過去に竹山さんのオーディオドラマ2作(18年の「友はいずこに」、21年の「レオナルド・ダ・ヴィンチの恋人」)に出演していた。
「失われた夢を求めて」の収録を終えて取材に応じた三田は「竹山さんが私に向けて書いてくれた最後の作品ができました。ほっとしていますし、誇りにも思いますが、やはり竹山さんに聴いてもらいたかった」と胸の内を明かした。
演出した小見山佳典氏は「竹山さんは4月12日に亡くなられましたが、私は4月3日に、いつも会っていた神楽坂の喫茶店で手書きの脚本をいただいていました。その脚本を印刷所に出し、三田さんにも読んでもらって、そろそろ収録の打ち合わせをしようと12日に電話したところ通じず、メールの返事もありませんでした。その後、夫人から亡くなったと聞きました」と説明した。
三田は「小見山さんから訃報を聞いて、夫人のところに電話して泣いてしまいました。夫人は竹山さんから最後に『手を握ってくれ』と言われて握ってあげられたのが良かったとおっしゃっていました。この作品の打ち合わせで竹山さんにお会いして『またこんな難しい脚本を書いて』と冗談を言いたかったのに…」と振りかえった。
「失われた夢を求めて」は竹山さんの母の思い出をモチーフに発想され、竹山さん自身の人生も色濃く投影された作品だ。主人公のヨシ子(三田佳子)は終戦の8月15日に海軍上等兵の国木(篠田三郎)に求婚され結婚するが、国木の不倫相手が妊娠して夫婦生活は破綻。それから70年以上の歳月が流れ、90歳になったヨシ子が国木の墓参りを望み、息子(竹中直人)に車いすを押されながら記憶をたどってゆく。
三田は「90歳ながらも、かわいい感じを出すことができれば、竹山さんが思う主人公の姿になるのではないかと思いました。お墓に向かって話すところでは、恨みつらみを言いながら、本当は好きだという気持ちや、支えてきてくれた息子への思いをちゃんとつむぎたかった」と語った。
過去の2作の収録ではスタジオに竹山さんが訪れ、三田や小見山氏と言葉を交わしていた。
三田は「竹山さんはいつも聞いていて、私が『どうですか?』と聞くと『いいんじゃない』と答えてくれました。手紙で『三田さんは芸の華がある』と良い言葉をもらったこともあります。役者は脚本家に『この役ができるか!?』と突きつけられます。突きつけられたら演じないといけません。今回も突きつけられました。収録が終わった時、竹山さんに『終わりました』と語りかけましたが、続けて『どうですか?』と問いたかったです」と語った。
「失われた夢を求めて」にはオーディオドラマの魅力が詰まっている。共演した三田と竹中はそれぞれ大河ドラマ「いのち」(1986年)、大河ドラマ「秀吉」(96年)に主演。実績十分の2人が声だけの芝居で母子の機微を聴取者に伝えようとする熱量がこの作品からひしひしと伝わってくる。
小見山氏は「うまい俳優さんは特に『ラジオドラマは難しい。怖い』と言いつつ『でも、ラジオドラマは楽しい。素敵』と続けます。映像がなく限定された中でイメージが広がっていく世界を大事にしたい」と語った。
三田は「私の初めての芸能の仕事がラジオドラマで、森繁久弥さんの娘役でした。当時はまだ10代で学生だったので、大人になってちゃんと参加したいという気持ちが強かったんです。『いのち』で小見山さんとご一緒して、竹山さんと縁ができて、ラジオに戻してもらいました。声と音だけで表現するのはなかなか難しいですが、それに挑戦すると頭の中も表現者としても活性化します」と話した。
「失われた夢を求めて」はオーディオドラマ再評価の契機になるだろう。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。