【アニ漫研究部】「包丁人味平」50周年 ビッグ錠氏「味の描き方」今も研究中

2023年06月25日 14:30

芸能

【アニ漫研究部】「包丁人味平」50周年 ビッグ錠氏「味の描き方」今も研究中
「包丁人味平」の主人公・塩見味平。中学を卒業して料理人の道に入った味平は、名だたる料理人との勝負をアイデアで勝ち抜いていく(C)ビッグ錠/リュウプロ Photo By 提供写真
 料理漫画の“元祖”とされる「包丁人味平」が今月、50周年を迎えた。今に続く料理バトルものの流れを作り、麻薬入り?のブラックカレーやドラム缶一本麺で読者を驚かせた伝説の漫画。作画を担当したビッグ錠氏(83)に当時の思いと、今も続く“味の執筆”への挑戦について聞いた。
 神奈川県藤沢市の自宅兼仕事場での取材。キッチンから出てきたビッグ氏が白い丼を手に現れた。フタを取ると中身は「チキンラーメン」(日清食品)。誰もが知る、1958年に発売された袋入り即席麺の草分け的商品だ。

 「卵は終盤にかき混ぜて麺に絡めて食べるのが好き」「他にはない味だよな」。下積み時代に同居していた親友で「巨人の星」の漫画家川崎のぼる氏(82)に作ってあげた思い出話も交え、楽しそうに話した。「お湯を掛けるだけですぐ食べられるし、しかもおいしい。夜も働く僕ら漫画家にとって、本当にうれしい商品だった。あの頃、コンビニもなかったからからね」。味覚は記憶を呼び起こすという。ビッグ氏にとっては、夢と挫折の詰まった青春時代を思い出す特別な味のようだ。

 料理漫画の巨匠の手料理としては質素に思えたが、それこそが「包丁人味平」を支える哲学なのかもしれない。主人公・塩見味平は、有名料亭の板前長の息子。だが「安くて美味しい料理を多くの人に楽しんでほしい」と、洋食店の見習いコックとして料理の道を歩み出す。連載は1973年発売の集英社「週刊少年ジャンプ」28号(6月25日号)から始まった。

 「その前に『釘師サブやん』というパチンコものを、原作・牛次郎さんのコンビでヒットさせていた。当時のジャンプ編集長が“ならば料理もアリ”と料亭で食事中に思いつき、オファーをくれたと聞いている」とビッグ氏。

 味平は中華やカレー、ラーメンなど主に大衆的な料理を題材に、凄腕料理人に奇抜なアイデアで立ち向かう。この“対決の構図”は発明的な発想で「大好きな西部劇」がヒント。「西部劇は最後の対決が重要。敵役を魅力的に描けば物語全体も盛り上がる」と展開に生かし、後に続く料理漫画の基礎となった。

 注意したのは、食材や調理の技巧の説明で情報過多にならないこと。「プロの料理人にとって当たり前のことを大げさに描いてもねぇ。プロも驚く漫画を描きたかった」。説明に紙幅を割きがちな“グルメ漫画”より「うまい」「まずい」で決着する単純明快な漫画を目指した。

 味平に続く「食漫画」の歴史も振り返り「“胃袋”で味わう戦後が、味平を描く頃には“舌”で味わう時代に変わっていった。その後は情報も含む“頭”で味わう時代になっていったのかな」と語る。

 今も漫画を描き続け、「食」専門の漫画誌「俺流!まんが飯」(ぶんか社)で「怪盗食いしん坊」を連載中だ。主人公が、泥棒に入った家の住人に、料理を作って悩みを解決してしまう物語。「ヒントは説教強盗。それに料理を絡ませた。いつか描いてみたいと温めていた」という。

 貸本漫画を含めデビュー66年の超ベテラン。今も絵にはできない「味」の描き方を模索する。「料理を写実的に描いても美味しく見えるとは限らない。ちば(てつや)さんとも話したが、ご飯は本当に難しい。一粒一粒描いたらうじ虫みたいだしね」と苦笑い。漫画を一時離れ広告業界で働いた20代、米国の業界誌で知った「シズル効果」を意識して描いている。「例えば魚を焼く“ジジジ”という効果音や、食にまつわる思い出話などが鍵になるのかなぁ」と、絵にはできない“味”を描き、味覚を刺激する表現を探し続けている。

 ――次回は「ブラックカレー」など作中で描かれた“伝説の料理”についてビッグ氏に語ってもらいます。

この記事のフォト

【楽天】オススメアイテム