市川中車、涙のダブル宙乗り 父以来32年ぶり演目で澤瀉屋お家芸 猿之助容疑者代役「菊宴月白浪」主演

2023年07月04日 05:30

芸能

市川中車、涙のダブル宙乗り 父以来32年ぶり演目で澤瀉屋お家芸 猿之助容疑者代役「菊宴月白浪」主演
東京・歌舞伎座で行われた「七月大歌舞伎」の昼の部「菊宴月白浪」で斧定九郎を演じる市川中車(C)松竹 Photo By 提供写真
 歌舞伎俳優の市川中車(57)が3日、東京・歌舞伎座で「七月大歌舞伎」(28日まで)の初日を迎え、昼の部「菊宴月白浪」に主演した。母親への自殺ほう助容疑で逮捕されたいとこの市川猿之助容疑者(47)の代役として回ってきた大役。澤瀉(おもだか)屋のお家芸とも言える人生初の宙乗りも務めた。
 「風に任せて飛び向かわん」。物語のクライマックスで、大凧(おおだこ)に乗って宙を舞った。凧の綱を引くのは澤瀉屋を中心とした俳優たち。突然の事態で一門がピンチに陥った中、期待を一身に背負って飛び立った中車の目には、わずかに涙も浮かんでいた。

 父の市川猿翁(83)が一大スペクタクルとして163年ぶりに復活させた演目。今回はそこに現代の最新技術も加え、32年ぶりに上演した。最大の見所は歌舞伎界でも珍しいダブル宙乗り。通常の宙乗りは、客席にせり出した花道の上で行うが、今回は客席の頭上でも舞い上がった。

 準備期間もわずかだった。先月にも昼の部で主演し千秋楽からこの日まで約1週間。中車にとってはこれまでで最も大きな役で、残っている資料も少ない。澤瀉屋関係者は「稽古はほぼ毎日詰まっていた。32年前に出演したことのある一門の役者とも相談しながら役を作り上げた」と明かした。「宙乗りも数回しか稽古できなかったはず。それでも本番では不安を感じさせない立派な飛びっぷりだった」と称えた。

 劇中では主人公が父親に切腹を迫るというシーンもあった。猿之助容疑者の事件を連想させてしまう場面だが、中車は持ち前の顔芸やせりふ回しを駆使し、深刻になりすぎない工夫を凝らした印象だった。

 澤瀉屋らしい派手な趣向が満載の演目。中車にとっては思わぬ形で一門を引っ張っていく形となった。この日配布されたパンフレットには「父の熱い思いを受け継ぎ、力を込めて勤めます」と役に懸ける思いを吐露。「令和のエンターテインメント作品として楽しんでいただけるよう、澤瀉屋一門をはじめ、共演の皆さまの胸を借り、力を合わせて臨みます」と力を込めている。

 ≪松竹・迫本会長 中車の活躍期待≫初日に立ち会った松竹の迫本淳一会長は猿之助容疑者について「これからどうなるかは、司法の判断も関わってくるので私からは申し上げにくい」としつつ「ただ中車さんにはこれからも頑張ってほしい」と期待を寄せた。今回は澤瀉屋にとっても大事な演目とあり「コロナも収束してきて、歌舞伎ファンも劇場に戻ってきた。一人でも多くの人に非日常を味わってほしい」と興行の成功を願った。
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