「どうする家康」明智光秀役・酒向芳 「家に帰ればトイレ掃除もする」

2023年07月23日 20:45

芸能

「どうする家康」明智光秀役・酒向芳 「家に帰ればトイレ掃除もする」
大河ドラマ「どうする家康」で明智光秀を演じる酒向芳(C)NHK Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】NHK大河ドラマ「どうする家康」で明智光秀を演じている俳優の酒向芳(64)がインタビューに応じ、役柄への思いや近況などを明かした。
 ──本能寺の変の前、明智光秀が愛宕山神社で「時はいま あめが下知る 五月かな」と歌を詠むシーンがありました。
 「優雅だと思いました。雨が自分に立てと告げている。あのシーンで『やるぞ!』と叫んでしまったら光秀らしくない。自分の思いを歌にするところが、品があって光秀らしいと感じました」

 ──自分の思いを歌に託すという芝居は難しくありませんでしたか?
 「やりにくいとは思いませんでした。光秀は頭の良い人だから、あの局面で歌を詠むというのはあり得ると感じました。あの時ふと歌が出るというのは、本人が元々持っているものだからでしょう。収録前に歌を詠む練習はしませんでした。われわれが現在歌っている楽曲になぞらえればできると思いました。私も普段、生活の中で何かの拍子にふと何かの曲を歌って自分の気持ちを表すことがあります。自分の中では、あの局面で歌を詠むことへの納得感がありました」

 ──本能寺の変で織田信長と対峙して「貴公は乱世を鎮めるまでのお方。平穏なる世では無用の長物。そろそろお役御免であろう」と言い放つシーンは相当にテンションを上げて演じましたか?
 「状況から見て既に光秀の勝ちです。勝ちの時はあのような高揚感が自然に出るんじゃないでしょうか。演じるというより、周りの人たちの高揚感と自分の高揚感が一緒になって生まれた感じです。これで信長を排除できる。自分の周りには信長以上の人はいないから、信長を排除してしまえば自分の天下になる。その状況を私自身に置き換えました。誰がいなくなれば私の天下になるのか…。想像しながらやりました(笑)」

 ──本能寺の変の後、光秀の高揚感をご自身も実感することはありましたか?
 「高揚感はないです。下克上を果たしたと言えば果たしましたが、徳川家康もまだ生きているし、光秀にできたのならば自分にもできると考えて反乱を起こすヤツはいくらでもいるだろうし、気が気ではない日々を送ったと思います。本能寺の変の後、光秀が香をたくシーンがあります。香のにおいをかいで落ち着きたかったのでしょうが、においのかぎ方が異常です。不安だったのだと思います」

 ──史実としては本能寺の変からあまり時を経ずに光秀は命を落とすことになります。
 「最後の場面に関しては話せませんが、演じていて面白かったです。光秀は人間ができていない。慕ってくれる部下は一人もいなかったのではないか。だから天下を取れなかった。そんなことを感じました」

 ──この作品の光秀には残忍性があり、武田勝頼の首を徳川家康に示し「蹴るなり踏みつけるなり気の済むまで存分になさいませ」と言うシーンもありました。
 「どのシーンも好きですが、あのシーンは特に大好きです(笑)。あのような残忍性は私の中にもあります。私だけではなく、誰もが持っているものだと思います。それを存分に出しました。扇子を持ち出して勝頼の首を叩く。新たな光秀像として描かれていて、面白いシーンだと思いました」

 ──2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」で長谷川博己さんが演じた光秀から大きくイメージが変わりました。
 「私にこの役が来たわけですから、変わっていいんじゃないですかね。私がやればどんな光秀になるかというある程度のイメージはあったでしょう。それを出させてもらうのは私にとって良いことですし、見る側にとっても新しい光秀像として良いことだと思います」

 ──酒向さんは50歳を過ぎるまで役者の仕事だけで生活できなかったという話は本当ですか?
 「本当です。惨憺たるものでした(笑)。パソコンを使えるわけでもないし、ほかに何かできるわけでもないから、そのまま続けるしかありませんでした。54歳で結婚しましたが、その頃もまだ大変で、かみさんに食べさせてもらっていました」

 ──年齢を重ねてから売れるというのは良い人生に見えます。
 「売れたと思っていませんし、今でも何も変わっていません。家に帰れば皿を洗うしトイレ掃除もします。ただ、自分が好きなことをやって、かみさんと子供にご飯を食べさせることができているのは良いとは思います。そう言うと、かみさんは『食べさせてもらってない』と怒るかもしれませんが(笑)」

 ──これから演じたい役はありますか?
 「やりたい役はないです。スケジュールが合わない時はお断りしますが、そうでなければ、依頼された役をやります。それが私の仕事ですから」

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。
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