誹謗中傷、LGBTQ…窮屈さ抱え生きる人へ 元看護師シンガー・うぴ子が伝えたい思い 初ワンマンT完走

2023年08月06日 18:00

芸能

誹謗中傷、LGBTQ…窮屈さ抱え生きる人へ 元看護師シンガー・うぴ子が伝えたい思い 初ワンマンT完走
ワンマンライブで熱唱するうぴ子 Photo By スポニチ
 シンガーソングライターのうぴ子(25)が7月30日、渋谷クラブクアトロでワンマンツアーファイナルとなるライブを開催した。
 自身初のツアーとして大阪、名古屋をまわり、最終地は東京。全席完売で急きょ立見席が発売される盛況ぶり。黒いワンピースに裸足で登場したうぴ子は、「52ヘルツの唄」「ヒューマンスクランブル」「カラス」など計16曲を歌い上げた。終演後には8月16日に新宿・歌舞伎町で行われるストリートライブへの出演を告知したほか、「カラス」の配信スタートも発表すると観客からは大歓声が挙がった。

 山口県出身で看護師として働き、上京後はコロナワクチンの打ち手をしながら、音楽への道を模索。21年夏に、リクルートスーツにギター一本を抱え、新宿の路上で中島みゆき「ファイト!」を歌い上げた動画が再生400万回を突破する大反響となった。

 アイドルかと思わせるかわいらしい顔立ちだが、歌を聞けばそのギャップに驚かされる。ドスの効いた圧倒的な声量とビブラートを効かせ、歌声には狂気と情念が宿る。藤圭子や中島みゆきの再来と称する声もある。

 動画視聴者からは号泣する人が続出。「令和の中島みゆき」「凄すぎてやばい」「40年来のみゆきさんのファンですが、みゆきさん以外でこれほどまでに琴線に触れる歌声のファイトは初めて聴きました」「みゆきさんが歌ってるみたいでした」「聴いてるだけで涙が出てしまい、感動」「既に中島みゆきクラスの歌唱力」「可愛い外見からアイドルのような可愛い声で優しく歌う感じかと思ったらめっちゃドス効いた迫力ある歌声でびっくり仰天!」などと2000件以上のコメントが寄せられた。

 注目が上昇する中で行われた初のワンマンツアー。若い世代や女性も多く集まり、幅広い世代から支持されている光景が広がった。「本当に、各地でお客さんのリアクションに特色があるなと。しんみり聴くところ、盛り上がるところ、それぞれ全然リアクションが違って面白かった」と充実の表情を浮かべた。

 通りすがりの人が聞いていくストリートではなく、ライブハウスでの歌唱。「前回の自分を超えるということを目標に置いていて。お金払ってお客さんが来てくれている中で、絶対過去の自分を超えなきゃなっていうのはすごく思ってます。それが自分のため、皆さんのためで、来てくださった方の応えたいという気持ちもありますし。やっぱり一回来て気持ちが感じられなかったなってなると次、来てもらえないなって現実的に考えた時にもそうだったので、何が何でも超えてやろうと」。音楽活動を突き進み、プロとしての自覚が芽生えてきた。

 一方で、「ちょっと私が一歩階段を登ったのかなって。やっぱり路上ライブの時は目の前の人が、ただ私の声で立ち止まってくれたら嬉しいなっていう気持ちではあったんです。少しずつ状況が変わってくると、それが本当に目の前の人をどれだけ感動させることができるかっていう。それは、どこの立場になっても自分がどこに身を置いてとしても同じことなんだなって、本当に大切なことっていうのは変わらないんだなって思いました」と変わらない“初心”も確信した。

 人の生死を何度も目撃してきた看護師の経験から、人の生きざまや死を歌い上げた曲が多い。

 その中でも、今回のライブで涙する人が続出したのが「ヒューマンスクランブル」だ。漫画「人間交差点」(矢島正雄/弘兼憲史)から着想を得て、自身の実体験をもとに作った一曲。今ツアーで初披露した。同性愛を理解してもらえずに苦しむ人、病気を抱えている人…自認する性をめぐる様々な問題や誹謗中傷など現代にも通ずるテーマ。「1番(の歌詞)は私の体験。2番は私の友達の病気になってしまって、それでも(友達は)夢があるからこんな所でくじけてられないっていう心境を歌っています。3番も私の周りの実話。自分は同性愛者だっていうことを言えないという内容です。確かに今LGBTQの問題とか結構あるなって作った後に気がついて。こういう窮屈な思いをしている人っているんだろうなって」と思いを寄せた。

 ただ無邪気に背中を押したり、励ます歌も多い中で、そうではない歌詞が涙を誘う。「頑張れっていう言葉って、本当にガケっぷちの人に言えない。刺さらないなって思うんです。『ヒューマンスクランブル』に関しては、届けたいっていう思いよりも、同じ境遇の人がスッと入ってくる歌にしたいと思って」。

 曲の最後に人柄がにじむ。「『人生という名の交差点にて、すれ違うあなたに あなたにどうか幸あれ』というフレーズがあるんですが、自分に意地悪をしてきたり、この人苦手だなっていう思う人たちの背景にもドラマがあるんだなって思うと、いいやって思うんですよ。その人たちにも人生がある。自分の好きな人だけではなくて。1番の歌詞にもあるように『あなたの曲、薄っぺらいんだよ』って言われたとしても、それがあったおかげでって私は感謝したいなと思うんです」と深い思いを込めた。「やっぱり人ってどれだけ苦しい思いをしても生きることを諦めきれないってなるのは、やっぱり人とのぬくもりなんだなっていう。ぬくもりだったり、愛だったり、言葉にすると軽々しくなっちゃうんですけど…」。

 まもなく配信が始まる「カラス」も漫画から着想を得て書き上げた。道端に倒れ落ちているカラスを見た際、「普通に生きることってなんでこんなに難しいんだろうって。カラスに対しても、私に対しても『お互いくたばるのはまだ早すぎる』と。どれだけ辛いことがあったとしても、“まだ辛いって思ってたら俺じゃないよね”と、そういう気持ちで書きました。結構ダークな曲ですけど、どこか光がある、そういう曲です」。

 9月からは念願だった旅に出る。東南アジアを一周する予定だ。もともと留学を希望していたがようやく海外渡航が自由にできるようになり、満を持して日本を飛び出す。「曲も作って、音楽につなげていきたいです。海外に行くと、俯瞰できるかもしれないし、まだまだ世の中にはこんな人もいるんだなって思うかもしれない」と目を輝かせる。

 「何事も経験」を地で行きながら、鎧をまとう旅でもある。「もしも私が音楽で、何かの拍子で無理だって思うことがあっても、いろんな生き方があるよって言えるように、自分に言い聞かせることができると思うんです。自分を守る術だなって。私は音楽がすごい大好きだし、音楽でやっていきたいって思ってるけど、そこだけじゃなくて。私はいっぱいもっともっとやりたいことがあっていいよねって。やっぱりそういう経験を持っておいたら、経験が背中押してくれるかなと思っています」と語る。

 今年12月には弾き語りワンマンライブの開催も決定。「今のモチベーションというか、路上ライブでもそうなんですけど、伝えたいっていう気持ちを忘れずに。どれだけ顔がうるさくなっても泣いてしまったとしても、それでいいっていう、表情豊かな感じを持っていたい」。この日のステージでも、狂気と情念が宿る目と、泥臭さのにじむ歌声は健在。「妥協せずにライブで何を頑張るっていうよりは、ライブまでにいろいろ経験して表現の幅を広げていきたいなって思います」。一つずつ階段を上っていく姿に、ファンからも業界からも熱視線が注がれている。

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