好調「らんまん」脚本家が明かす朝ドラの重圧と喜び 当初はネットの声に「恐怖心」も 幸福な執筆2年述懐

2023年09月07日 08:15

芸能

好調「らんまん」脚本家が明かす朝ドラの重圧と喜び 当初はネットの声に「恐怖心」も 幸福な執筆2年述懐
傑作の呼び声も高いNHK連続テレビ小説「らんまん」の脚本を手掛けた長田育恵氏 Photo By 提供写真
 【NHK連続テレビ小説「らんまん」脚本・長田育恵氏インタビュー(1) 】 俳優の神木隆之介(30)が主演を務めるNHK連続テレビ小説「らんまん」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は最終章に突入。残り3週(16回)となった。朝ドラ3作ぶりの視聴率18%超えをマークするなど、ドラマの人気を支えるのは「朝ドラ屈指の傑作」の呼び声も高い劇作家・長田育恵氏(46)の脚本。長田氏が企画提出から最終週脱稿までの約2年間に及んだ作劇を振り返り、朝ドラ執筆のプレッシャーと喜びを明かした。
 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算108作目。「日本植物学の父」と称される牧野富太郎をモデルに、江戸末期から昭和の激動の時代を生き抜き、明るく草花と向き合い続けた主人公・槙野万太郎の人生を描く。

 長田氏は2018年に「海越えの花たち」「砂塵のニケ」「豊饒の海」の戯曲で第53回紀伊国屋演劇賞個人賞に輝くなど、評伝劇に定評のある劇作家。テレビドラマはNHK「流行感冒」「群青領域」「旅屋おかえり」などを手掛け、今回、朝ドラ脚本に初挑戦した。

 丁寧に積み上げた人物描写や美しい台詞の数々、牧野博士の名言「雑草いう草はないき」の通り、光り輝く脇役たちと週タイトルの植物が絡み合う巧みなストーリー展開が視聴者を魅了。キャストの熱演、画面に映り込む花々など細部に行き届く品のある演出も相まって、派手さはなくとも支持を集めた。第105話(8月25日)は平均世帯視聴率18・5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と番組最高を更新。21年度後期「カムカムエヴリバディ」以来3作ぶりの朝ドラ18%超えを記録した。

 長田氏が脱稿してから間もない8月中旬のインタビュー。書き終えた心境を問われると「率直に言うと、ホッとしています。無事やり遂げることができてよかった、それに尽きます。チームの皆さんを思いを裏切らない物語を紡ぐことができたんじゃないかと、それが一番ホッとしている部分です」と安堵した。

 長田氏が手掛けた最長の連続ドラマは21年10月期のNHKドラマ10「群青領域」の5話(全10回、長田氏は第1~5話を担当)。それが今回は全130回。「全く未知の世界すぎて、私にやり遂げることができるんだろうかと恐怖心は物凄くありました。深刻な話じゃないんですけど、電車とか自分の意思で出ることができない空間にいると、私はパニック症のような状態になってしまうんです。朝ドラのお話を頂いて家に帰ってきた時も、呼吸がしにくくなったり、動悸がして恐怖感に呷(あお)られたり、その症状が出ちゃったんですね。朝ドラというものが巨大な密室空間に感じられて『執筆が始まったら、終わるまで出られない』。そんなふうに捉えてしまう初期症状がありました」と国民的ドラマの重圧を赤裸々に打ち明けた。

 しかし、いざ具体的な作業が始まると「結論から言うと、自分には凄く向いている仕事だと思えるようになりました。もちろん、年間を通じて締め切りがあるとか、物理的なプレッシャーは消えないんですが、とにかく私は物語を考えること、登場人物を生み出して、その行方を考えることが大好きなんです。登場人物みんなのことを長期にわたって丁寧に追っていける作品というのは、なかなかないので、本当に貴重な機会を頂いたなと思っています。物理的なストレスを切り分ければ、物語と登場人物だけに没頭できた2年間は、私にとってはとても幸福な時間でした」と振り返った。

 日本の朝を彩り続ける伝統のドラマ枠。近年はSNS上における反響も大きくなったが「ネットの声に影響されて、物語の方向性が変わったり、自分の軸が揺らぐことはないように心掛けていました。過剰に受け止めすぎちゃいけないと。ネットの声には恐怖心もありましたけど、美術チームと練り上げた小道具まできめ細やかに見てくださったり、脚本に込めた思いを汲み取って熱量あふれる感想や考察を書いてくださったり、とてもうれしかったです。『明日の続きを楽しみに、今日も1日頑張れます』という声には、本当に感動しました。もともと私が物語というものに魅了されたのも、読む側・見る側として『続きが楽しみ』というワクワク感が原点。そういう物語を自分が紡ぐ側になれたんだと胸が熱くなりました。視聴者の皆さんに心から感謝しています」と万感の思いを語った。

 =インタビュー(2)「万太郎・神木隆之介の魅力」に続く=
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