ベネチア国際映画祭で小津監督「父ありき 4Kデジタル修復版」上映 濱口監督が紹介

2023年09月07日 20:10

芸能

ベネチア国際映画祭で小津監督「父ありき 4Kデジタル修復版」上映 濱口監督が紹介
ベネチア映画祭クラシック部門で小津安二郎監督の「父ありき 4Kデジタル修復版」上映前に作品紹介する濱口竜介監督(松竹提供) Photo By 提供写真
 開催中の第80回ベネチア国際映画祭クラシック部門で現地時間6日、小津安二郎監督の「父ありき 4Kデジタル修復版」が上映された。
 戦時下に製作され、1942年に公開された「父ありき」は、同じ教師の道を選んだ父と子の親子関係を繊細かつ濃厚に描いた、哀感にあふれた作品。笠智衆の初主演作で、佐野周二ら後の小津作品の常連となるスターたちが多く出演している。

 修復版のワールドプレミアとあって世界中の映画関係者が来場し、会場は熱気に包まれた。上映前には、コンペティション部門に選出された最新作「悪は存在しない」が4日に上映され、約8分間のスタンディングオベーションで温かく迎えられた濱口竜介監督(44)が登壇。小津作品を紹介した。

 濱口監督は「今年は小津の生誕120年です。そして没後60年にもあたります。この60年という数字は、実は東洋の人間にとっては特別な意味を持っています。60年という時間は、ちょうど暦が一周する、そういう時間です。その60歳の誕生日というのは、新たに生まれ変わる日、新たに赤ん坊になる日、と言われています。小津はまさに、この60歳の誕生日に亡くなりました。新たに生き直すその日に、まさに新しい世界に旅立ったわけです。この小津の人生を思うと、小津のフィルモグラフィを観る時に起きる、無限の体験みたいなものとの相似に驚かざるを得ない、動揺せざるを得ないと思います」と今年が小津監督にとって特別な年であることを説明。

 その上で「小津の映画を観るということは、絶え間なく揺れ動くことです。この反復されるモチーフが、観ている観客の中でつながり合って、刺激し合って、そしてそのモチーフが自分の中でまるでダンスを踊るように活性化されていきます。観客は小津を観ることによって、そのモチーフが踊りだすダンスフロアのような場になることができます。それがどれだけ刺激的で喜びにあふれていて、そして時には激しい畏怖を起こさせるものであるかは、体験していただくしかないと思います」と続けた。

 生涯に54本のメガホン作を残した小津監督。濱口監督は「実は20本くらい観られない映画があるということです。これらの映画が発見されることを心から願っています。その度に、小津の映画を観る体験が更新されていくと思います。その素晴らしい事態が起こることを祈って、ご紹介を終えさせていただきます。本当に楽しんでください」と締めくくった。
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