大泉洋と明石家さんま 旅番組を超える「リクエストトラベル」
2023年10月08日 09:00
芸能
企画立案から放送に至るまで3年を要したのは、コロナ禍であったこと、大泉とゆかりのある明石家さんまをゲストに招こうと考えたことなどから、北海道ロケのスケジュール調整が難航したためだ。
実現したのはNHK側の粘り強さのたまものと言えるが、堀口氏は「大泉さん側、さんまさん側に小まめにスケジュールをうかがい続けました。私は打たれ強いと言いますか、相手に『無理』と言われても『そこをなんとかお願いします』と言うところがあります。東京で音楽番組『SONGS』を担当していた頃、玉置浩二さんや長渕剛さんらのクリエイティビティーに向き合ってきた経験が生きていると思います」とほほえむ。
番組は大泉がさんまの「北海道でやりたいこと」に応える形式。さんまのリクエストは(1)34年前に訪れた名馬・テンポイントの墓に再び行きたい(2)ファイターズの新球場で清宮選手を激励したい(3)本当においしいスープカレーを食べたい(4)北海道出身の大スター・松山千春に会いたい──だった。
道中の2人のやりとりが終始、漫才のようで笑える。堀口氏は「お二人ともボケとツッコミが自由自在です。大泉さんが自虐的な話をすればさんまさんがそこに切れ込んで傷を深くして笑いを取る。さんまさんが弱みを見せれば大泉さんがすかさず突っ込む。ロケ全体を通して使えない場面がほぼないようなトークを繰り広げていて、そのまま生中継しても面白いほどのクオリティーです」とたたえる。
笑いだけではない。普段は胸の奥にある真摯な思いをめったに明かさないさんまが、高校時代に笑いを志したきっかけや上京する時の気持ちを淡々と語る場面がある。さらに、大泉に仕事を続けて行く上でのアドバイスを問われて答えを口にする場面は「プロフェッショナル 仕事の流儀」のワンシーンのようだ。
堀口氏は「旅の空で、相手が大泉さんだから話してくれたのだと思います。そもそも、さんまさんが出してくれた4つのリクエストが秀逸で、ご自身の歴史を重ねたもの、自分の足跡をたどるものになっています。さんまさんが名プロデューサー、名構成作家であって、私たちはさんまさんが考えた料理のメニューの材料を持ち寄っただけ。大泉さんが料理してくれた感じです。お二人のおかげで、ただ旅を楽しむだけの番組ではないものが出来上がりました」と語る。
最後に登場するのが、スペシャルゲストの松山千春。ラジオ番組のスタジオ内での3人のやりとりは、まるで昭和のベタな漫才のようになっていく。
堀口氏は「私が『SONGS』をやっていた頃、上司がずっと千春さんに出演をお願いしていたのに出てもらえなかったので、今回も難しいと思っていました。ところが、さんまさんとの共演ならば可能性があると言われ、企画書をお送りしたところ、ラジオの生放送の前ならば対応していただけるということになりました。あの場面は事前に何も決めていなくて、千春さんの生放送の準備やさんまさんの帰京の時間が迫っていて時間との闘いでしたが、想像以上のものができました」と満足そうな笑みを見せる。
大泉と親しい吉田羊の語りも、大泉とさんまの2人を包み込むような温かみがあって心地いい。
北海道発の新たな旅番組「リクエストトラベル」の今後にも期待する。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。