尾上松也 伝統×革新で挑む歌舞伎“道” 万能役者の揺るがぬ信念「誰かの“道しるべ”に」
2023年10月29日 05:20
芸能
「歌舞伎は伝統芸能と言われますが、伝統は守るだけでは廃れてしまう。受け継ぎながらも、革新し続けることが大切です」。自身は現代劇にも進出し、唯一無二の存在感を放つ。「歌舞伎と現代劇は、表現方法が違うだけ。演じることの間に線引きはありません」と、力強いまなざしで語った。
松也を見ない日はない、というほどの活躍だ。演劇でも映像作品でも、観客の心をつかむ。本番はもちろん、稽古なども含めて常に掛け持ち状態。多い時には3作品が重なったこともある。「なぜこの時期に…!と思うことは度々あります(笑い)。ですが、お仕事を頂けるのは本当にありがたいですよね」。そう語る裏には、苦難の日々があった。
5歳の時に「伽羅先代萩」の鶴千代役で二代目尾上松也を名乗り初舞台。歌舞伎の世界に身を置く中、20歳で父の六代目尾上松助さん(享年59)がこの世を去った。役者としてまだ修業中でありながら、家族、そして一門の大黒柱に。責任の大きさを感じながらも、心に誓った。
「代々の家柄という大きな後ろ盾もありませんので、このままでは歌舞伎界で身を立てられない。ならば歌舞伎以外の力をお借りして、自分の価値を上げようと決めました」
09年から歌舞伎の自主公演「挑む」を主宰しながら、さまざまなオーディションに参加。12年に出演した蜷川幸雄さん演出の舞台「ボクの四谷怪談」での好演で、続々と仕事が舞い込むようになった。
松也は持ち前の歌唱力で、ミュージカルでも活躍の場を広げる。「バラエティー番組にも出演させていただくようにもなった。僕にとってコンプレックスだった“血筋”ですが、逆に背負うものがないからこそ、自由に今、できているのかな」とほほ笑んだ。
歌舞伎俳優としての矜持(きょうじ)は忘れない。今年7月には、主演を務めた新作歌舞伎「刀剣乱舞」で演出にも初挑戦。オンラインゲームと組み合わせて、新たな作品を世に送り出した。決まった型のある古典演目とは、またひと味違った新作歌舞伎。「古典もかつては新作で、長く愛されてきたからこそ今も上演される。新作を作ることも、継承すべきことの一つ」と力を込める。熱意を持った役者の存在があるからこそ、伝統は脈々と紡がれていく。
多くの先輩の背中を見て、役者の心構えを学んできた松也。そしていつかは自分も「誰かの“道しるべ”になれればいいな」。歩みを止めず、さらに前へ進んでいく。
≪11月出演「ガラスの動物園」 渡辺えりと念願の舞台≫11月出演の「ガラスの動物園」は、演出の渡辺えり(68)と松也にとって念願の舞台となる。1930年代の大恐慌下の米国に生きる家族を描いた戯曲で、「消えなさいローラ」はその後日譚(たん)。2020年に渡辺と「消えなさいローラ」の2人芝居を上演。当時から2人で「ガラスの動物園」もやりたいと話しており、松也は「ようやく実現してうれしい」と喜んだ。2人のほか吉岡里帆(30)、和田琢磨(37)が出演する。
◇尾上 松也(おのえ・まつや)1985年(昭60)1月30日生まれ、東京都出身の38歳。母親は元新派女優の盛恵さん。95年、NHK大河「八代将軍 吉宗」でドラマデビュー。巨人ファンを公言している。身長1メートル78。