中村雅俊と聴いたビートルズ「ナウ・アンド・ゼン」
2023年11月13日 11:00
芸能
「ビートルズの話ができるので楽しみで来た。中学の時、しょっちゅう流れていた『抱きしめたい』が半端じゃなかった。なんじゃこりゃ!?から始まった。それからずっとアルバムが出るのに合わせ、昼飯を半分にして貯金した。LP盤に針を乗せ、どんな音楽が流れるのか、ドキドキした」
ビートルズ愛があふれる言葉。中村はこれまで自身のコンサートや出演したドラマの中でビートルズの曲をカバーして来たという。
今回のイベントは、新たに発売されたベストアルバム(通称・赤盤、青盤)を、招待されたリスナー100人と一緒に聴く試み。高音質・大音量で実際に曲を聴いてみると、まず感じたのは、ポール・マッカートニーが弾くベースの音の響き、その音の流れの美しさだ。中村は冗談まじりに「ポールはもっと控えめにしてほしい」と話し、笑いを誘った。
およそ2時間のイベントで、中村と萩原氏が選曲したのは「アイ・フィール・ファイン」「ひとりぼっちのあいつ」「愛こそはすべて」「ジョンとヨーコのバラード」など計8曲で、ジョンが作った曲がほとんどだったのが印象的だった。
個人的に、改めて高音質・大音量で聴いて感銘を受けたのは「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」。これはジョージ・ハリスンが作った曲だが、音がとても立体的で、左のスピーカーからエリック・クラプトンのギター、少し右寄りからポールのハーモニーが聞こえたのが胸に染みた。
中村は「この曲はサビでマイナーからメジャーに変わる。僕もまねをしてAmからAに変わる曲を作ったことがある。ミュージシャンに聞くと、ジョージのギターは実際に弾いてみると難しいと言う。ジョージはこの曲をアルバム『アンソロジー』ではアコギを弾いて歌っているが、こんな感じじゃない。フォークソングを歌っているかのようだ。それにしても、自分の奥さんを寝取った人(クラプトン)との友情が続いたことをみなさん信じられます!?」と語り、また笑いを誘った。
49年前にジョージの自宅を訪れて対面したエピソードやその後にオノ・ヨーコさんとも会った逸話も秀逸だった。
イベントの最後は新曲「ナウ・アンド・ゼン」のミュージックビデオの視聴。現在のポールとリンゴの映像にビートルズ時代の4人の映像が重ねられているところがファンの涙腺をゆるます。残されたジョージのギターの音を聴けるのがうれしい。何より、まだ若かったジョンのボーカルに年老いたポールとリンゴのハーモニーが重ねられているところがたまらない。最新技術を使って完成させたこの曲には賛否両論があるのかもしれないが、実際に目にして、耳にしてみれば、強く心を揺さぶられる。モノクロ映像の4人が観客に向かって深く頭を下げるラストシーンは涙をこらえきれない。
「ジョンのアルバムの中に『ジョンの魂』があるが、ジョンの魂が継続して受け入れられたらいいと思う」
中村雅俊の至言だった。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局文化社会部専門委員。テレビやラジオ、音楽などを担当。