谷口キヨコ 歌舞伎「あらしのよるに」が教えてくれたこと
2024年09月20日 15:01
芸能
最近は漫画やアニメが原作の新作歌舞伎もたくさんあり、その融合がとても面白く、古典とともに楽しんで見ています。
私は年に二、三度歌舞伎を見に行きます。せっかく京都に住んでいるのだから、と顔見世を見に行くようになり…そうなると他の演目も気になってきて南座で、大阪松竹座で、と観劇を楽しみにしています。ひいきの役者さんは中村壱太郎さん! 女形をされるので美しいし、かわいいし、りりしいし…。ご自身の才能と努力、そしてお人柄の良さがあふれ出る演技は私にとっては尊いです(完全に推しです)。
幕あいの松花堂弁当とか甘味所でおぜんざい食べるとかの、たまの和風な時間がええ感じです。
『あらしのよるに』は、オオカミのガブとヤギのメイが嵐の夜に雨宿りしたところで何も見えない真っ暗闇の中、話をしているうちに打ち解けて友だちになってしまう…というお話です。
野生ではオオカミとヤギは「捕食する・される」関係。闇だからこそ、相手の属性が分からずにふたり?は話しながらお互いを知り、関係を深めていきます。
実はガブの好物はヤギだし、これまで、もちろん食べたことあるし(メイと知り合ってから我慢してヤギは食べていない)、じゃあ今は何食べてんねん!他の動物ならええんかい!とか突っ込みどころはあるけど、とにかくそれまで「食べ物」としか見てなかったヤギを「友だち」として意識するわけです。
オオカミとヤギでいえば食物連鎖の上下ではなく、友だちとして並列な存在になるわけです。それは野生のオオカミの食欲さえも我慢させてしまう(あらしのよるに、では)…。
相手を知らないと、それは自分の都合の良い存在になってしまう。でも相手の存在を知り、その距離を縮めた瞬間、相互の関係が始まります。
単なる「それ」から、その相手は「あなた」になる。それぞれが二人の関係に入っていきます。
自分に大切な人がいるように相手にも大切な人がいる。そんなことを想像できる関係になる。これが一番大事なことなのかな、と。
オオカミとヤギだけじゃなく、人間同士に言えることだと思うのです…。