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火を噴く?噴かない?アニメ版「ゴジラ」静野&瀬下W監督のせめぎあい

2017年11月09日 10:00

芸能

火を噴く?噴かない?アニメ版「ゴジラ」静野&瀬下W監督のせめぎあい
劇場版「GODZILLA 怪獣惑星」でタッグを組んだ静野孔文(左)・瀬下寛之両監督 Photo By スポニチ
 特撮怪獣映画の代名詞「ゴジラ」を初めてアニメーション化する映画3部作の第1弾「GODZILLA 怪獣惑星」が17日、公開される。瀬下寛之、静野孔文両氏による共同監督制の作品だが、誰もが知るこの怪獣との距離感は対照的。熟知する瀬下氏に対して、全くと言っていいほど知らない静野氏。“ゴジラ新生”に至るまでの2人のせめぎ合いとは――

 3年半前にスタートしたアニメ化計画。瀬下氏はオファーを受けた当時を振り返り「アニメでゴジラ?いやいやいや…絶対無理!と思った」と明かす。その理由について「世界でも類を見ないほど独自性のある映画。唯一無二の“様式美”とも言える世界観がある。簡単にアニメ化できる作品じゃないです」と強調した。

 一方の静野氏は「オファーを頂いた際は“あの有名なゴジラか”と感じたくらい」とあっさり。「(ゴジラ映画は)ほとんど見たことがなく、内容を知らなかった。特別に意識して作品に入ることはなかった」とし、“日本を代表する怪獣映画”と身構えることもなかった。「ハリウッド版のゴジラ(1998年公開)は見ましたよ。魚をバクバク食べる、エメリッヒ監督のヤツですね」と話す隣で、瀬下氏が笑いをこらえた。

 2人に明確な役割分担はなかったようだ。瀬下氏が「比較的得意なSF考証や世界観設定をやや多めに受け持った」というが、ほとんどの仕事は共同作業だったという。

 しかし、話を聞いていくうちに、2人が“ゴジラを知る監督”と“知らない監督”だったことこそが、最も重要な役割分担だったのかもしれないと思えてきた。新たなゴジラ像を作る上で、この違いが大きな意味を持った。

 例えば今回のゴジラは、口から炎を噴かない。この代名詞ともいえる特徴に異議を唱えたのが静野氏。「ちょっと違和感あるんですよね」と疑問の声を上げた。「僕の最初のアイデアは思いっきり火を噴いていました」という瀬下氏らとの話し合いを重ね、今作では炎を噴かないゴジラになった。

 新たなゴジラ映画を作る上では、想像力のアクセルとブレーキの力加減が重要だったようで、静野氏の自由な発想は従来のゴジラ映画をいい意味で壊す原動力になった。

 「新しいゴジラを作らなくては…と思っているのに、自分には意外なほどゴジラへの既成概念があると気づきました。僕だけなら“従来のゴジラらしさ”の重力に引っ張られていたでしょう」と話す瀬下氏に対し、静野氏は「僕はブレーキをかけないことが危険な行為だとすら分かっていない。会議で認められるのなら、いいんじゃないかと思っていた」と話した。

 「怪獣惑星」は、ゴジラとの戦いに敗れて宇宙に逃げた人類が、異星人の協力を得て“再戦”に臨む近未来の物語。ゴジラはかつてないほどに巨大で、強く恐ろしく描かれ、3DCGアニメだからこそ再現できたと思える場面ばかりだ。

 ただ、新しい舞台と新しいゴジラを描いても、やはり「ゴジラ」だと思える映画になっている。それは、瀬下氏が「一番好き」だという1954年(昭29)公開の初代「ゴジラ」への強いリスペクトがあるからだろう。

 瀬下氏は、当時の観客が受けたであろう衝撃に関して「ほんの10年前、空襲で町を火の海にされた人たちは、あの映画をどう見たんでしょうね」と思いを馳せた。東京の町並みを踏みつぶして歩き、モチーフの一つが水爆実験だった初代。「アニメ版ゴジラには初代が持つようなメッセージ性、テーマ性がしっかりとあります。見終わった時、いろいろと考えさせられる作品になったと思います」と自信を見せた。

=16日に2人のインタビュー後編をアップする予定です=

 ▼GODZILLA 怪獣惑星 20世紀最後の夏に謎の巨大生物「ゴジラ」が出現。人類は半世紀にわたる戦いを続けた末、2048年に宇宙船に乗りこみ、11・9光年離れた「くじら座タウ星e」に20年掛けてたどりついた。しかし、そこは予測以上に環境が地球と違い、人類は地球帰還を決断。その際、ワープのような時空間移動をしたため、地球では約2万年の歳月が経過。ゴジラを生態系の頂点とする世界に変わり果てていた。

 ◇静野 孔文(しずの・こうぶん)1972年、東京都生まれ。2004年にテレビアニメ「名探偵コナン」の演出を手掛けた後、05年、米国で放送されたテレビアニメ「G.I. Joe SIGMA6」の総監督・監督に抜てきされ、活躍の場を北米に移す。07年「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序」で演出協力、09年、オリジナル・ビデオ・アニメーション「真救世主伝説 北斗の拳:第四部 トキ伝」で監督を務めたほか、11年には劇場版「名探偵コナン 沈黙の15分」の監督に。同作で日本アカデミー賞優秀アニメーション賞に選出されると、以降、17年まで連続で同シリーズの監督を担当、17年の「から紅の恋歌」ではシリーズの歴代最高興行収入が更新された。

 ◇瀬下 寛之(せした・ひろゆき)1967年、東京都生まれ。映画「河童」やテレビCM、ゲーム映像など、さまざまな分野のCG/VFX制作でCGディレクター/デザイナーとして従事。97年渡米、01年公開の映画「ファイナルファンタジー」にてアートディレクター。01年「ファイナルファンタジーX」、02年「同 XI」などのゲームムービー制作ではデザイナー/VFXスーパーバイザーを担当。07年には、松本人志監督作品「大日本人」、09年「しんぼる」でVFX監督を務めた。10年にポリゴン・ピクチュアズ入社。14年「シドニアの騎士」副監督、15年「シド ニアの騎士 第九惑星戦役」監督、15〜16年「亜人」総監督、17年「BLAME!」監督。

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