死してなおトラブル頻発 多くの人を振り回し続けたマラドーナ氏 筆者も…
2020年12月10日 13:30
サッカー
W杯では2大会ぶり、8年ぶりのゴールだった。ネットが揺れるのを確認すると、テレビカメラに向かって走り出した。次の瞬間、大きく目を見開き、大声で吠えながら近づいてくる、狂気に満ちた顔がテレビ画面に大きく映し出された。
その形相があまりにも異様だったため4日後の第2戦ナイジェリア戦(ボストン)後のドーピング検査で指名されたのではないか。そんな噂があった。コカイン使用容疑で逮捕された“前科”があるマラドーナ氏は薬物使用疑惑がささやかれていた。奇異な行動をFIFA(国際サッカー連盟)も見過ごすわけにはいかなかったということなのだろうか。
ナイジェリア戦後に採取した尿からは禁止薬物が検出された。そして、かつての英雄は大会から追放された。
処分を受けたマラドーナ氏は6月30日にダラス市内の宿舎で記者会見を開き、涙を浮かべながら無実を訴え「今後のことは家族や(アルゼンチンサッカー協会の)グロンドーナ会長と相談して決める。もう一度やり直す力はない」と引退の可能性を示唆した。
その日、アルゼンチンは1次リーグ最終戦(ダラス)でブルガリアと対戦した。筆者も取材する予定だったが、キャンセル。朝から宿舎に張り込み、記者会見ではすぐ側で肉声を聞くことができた。
2大会ぶりの優勝を狙っていたアルゼンチンは司令塔を失い、7月3日の決勝トーナメント1回戦(ロサンゼルス)でルーマニアに2―3で敗れた。スタンドで見守ったマラドーナ氏は敗戦の瞬間、悲しげな表情を浮かべて頭を抱えた。一つの時代が終わった。
後日談がある。数日後、ボストンに滞在していた時の出来事だ。プレスセンターからボストン市内に向かうメディアバスの中で「米国サッカー協会幹部」と名乗る人物に話しかけられた。
「いい物を見せてあげるよ」。その白人男性は1枚の写真をバッグから取りだした。
マラドーナ氏がイスに腰掛け、目の前の机の上には、黄色い液体が入った容器が置かれていた。
「ナイジェリア戦のドーピング検査の時の写真だよ」。本物ならスーパースターの凋落(ちょうらく)を象徴する衝撃的な写真だ。液体の正体は不明だが、入手できれば新聞の1面を飾れる。「複写させてくれ」と申し出ると、男は快諾した。
その日はカメラを持っていなかったため、翌日ボストン市内のレストランで落ち合う約束をして別れた。
そして一夜明けると、カメラマンを連れてレストランに出向き「米国サッカー協会幹部」を待った。しかし、何時間たっても彼は姿を見せなかった。
マラドーナ氏死去の余波は続いている。葬儀関係者らが遺体と一緒に撮影した写真が拡散し警察が捜査を始めた。同氏にささげる黙とうを拒否したスペインの女子選手に殺害予告が届いた。
いなくなってもトラブルが頻発しているのがいかにもマラドーナ氏らしい。過去にも多くの人が振り回されてきた。筆者もその一人なのかもしれない。(新潟支局長)
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