【コラム】海外通信員
イタリアW杯事情 不出場も地上波無料放送
2018年07月07日 07:00
サッカー
しかし、このサッカー大国の深さをなめてはいけない。それはそれとして、イタリア人はサッカーというスポーツを深く愛しているのである。
今回、W杯のイタリアの放映権は民放TV局メディアセットが一社独占で獲得した。しかも、有料の地上波デジタルチャンネルを持っているにもかかわらず、全試合を地上波で見せるという気前の良さだ。その結果、イタリアがいないという状態にも関わらず思いのほか、成功を収めているのだという。視聴占拠率はこちらの時間で昼に開催される試合でも25%を超え、他のコンテンツが多くなる夜8時台からの試合でも28%を超えた。試合が終わればすぐ特集番組が始まり、サッカー界の大物ゲストが呼ばれスタジオでリプレイを流しながらああだこうだと意見をかわし合う。イタリアがいないにも関わらず、それで番組を成立できるのが恐ろしいところだ。
元イングランド代表監督のファビオ・カペッロ氏などがゲストに呼ばれて、日本VSベルギー戦後に「「私が監督なら本田の首根っこ捕まえて怒ってるところだ。もう延長が見えるところで、なぜGKに易々取られるボールを蹴る?なんでCKスポットの近くで時間を稼がなかった」ということを、それこそ自分がベンチにいたかのように熱く話すわけである。
おかしいのは翌朝、街であったイタリア人もみな同様のことを言ってきたということだ。「勿体無い、なんで攻めたんだよ」「ファウルで止めりゃよかったじゃん」ととてもがっかりした表情をしてである。ザッケローニ氏は地元紙に寄せた手記の中で「ずるさの欠如」とつづっていたが、そういった意識を一般のサッカーファンも共有していたのが凄いところ。それ以前に、伝統国の絡まないカードの試合でも一生懸命観るものである。そういえば日本VSセネガル戦の時は、#GiapponeSenegalのハッシュタグが1位を達成していたっけ。
ちなみに日本戦を観ていた人からは「日本は良いチームだった」という感想をもらった。以前森本貴幸(現J2福岡)が所属していたカターニアの地元記者いわく、イタリアが出ないから昔のよしみで日本を応援しようという地元ファンも多かったとか。そしてもちろん、日本のサポーターも代表チームも会場の清掃をやったことは、サッカーに詳しくないような人の胸も打った。
共同経営者として育成クラブを運営する知己のサッカーコーチは、「育成年代から教育として教えられているということなら、うちのクラブにも来てもらいたい。教育の欠けたいまの子供らに手本として見せたい」とも言っていた。彼らの心に響くパフォーマンスをピッチ内外で繰り広げた日本代表の選手たちとサポーターを誇らしく思う。それと同時に、サッカーファンとして関心を払い、良いところは良いと評価をしてくれるイタリアの人々の懐の深さに改めて感服するものである。(神尾光臣=イタリア通信員)