【コラム】金子達仁【コラム】金子達仁

念願のJ契約制度改定も新たな"入り口"必須

2024年09月26日 12:00

サッカー

念願のJ契約制度改定も新たな
目指すべきは、選手だけでなく、チームに携わる人すべてが豊かになる道
 わたしに娘はいないが、いたとする。年頃だったとする。ある日、「紹介したいヒトがいるの」と言われたとする。ドキっとする。「何をやっているヒトだ?」と聞いたら「サッカー」という答えが返ってきたとする。
 困る。

 自分自身が親の言いつけに背きまくってきた以上、反対はできない。できないのだが、できることならしたい。彼氏の職業が「フリーのライター」だった場合の次ぐらいの勢いで反対したい。だって、ごく一部のエリート以外、給料が安いのはわかっているから。選手生命が短いのもわかっているから。第二の人生が、たとえばプロ野球を卒業した人に比べても、かなり厳しいものになっている選手が多いという現実を知っているから。

 なので、エポックメーキングな決定だとは思う。Jリーグが発表した選手契約制度の改定。99年から継続されてきた、いわゆる“プロABC契約”が撤廃され、670万円が上限だったプロ契約初年度の報酬は1200万円に引き上げられた。

 選手会の吉田麻也会長は今回の撤廃を「歴代選手会長から引き継ぐ悲願。選手を代表して深く感謝したい」とのコメントを発表した。以前、J2選手の報酬はハンバーガーチェーンでバイトするより安い、などと言われた記憶があるが、J3になると冗談ではなく現実である。今回の改定ではカテゴリーごとの最低報酬を定められ、J3は240万円ということになった。選手の側からすれば、歓迎すべきことであるのは間違いない。

 Jリーグの報酬が世界最高水準だった30年前、日本はW杯に出場した経験がなかった。当時、日本の選手が欧州でプレーしようと思えば、収入の大幅ダウンを覚悟するだけでなく、自分がクラブ側に経済的な利益をもたらす存在であることを証明する必要さえあった。

 だが、欧州のクラブにとって「泡銭(あぶくぜに)が入るなら獲ってやるか」的存在でしかなかった日本人選手に向けられる視線は、確実に変わっていった。断言してもいいが、「日本人だから欲しい」と考えるクラブが多数派になる時代は、すぐそこにまで来ている。少なくとも、日本人であることがマイナスになる時代は完全に終わる。

 そうなれば、安すぎるJリーガーの報酬は、明治初期の文化財大量流出と似た事態をひき起こす可能性があった。今回の改定には、そうした危機を防ぐという狙いもあったはずだ。

 ただ、手放しに喜んではいられない人たちもいる。

 劣悪すぎる選手たちの立場にはメスが入った。だが、支払われる側の状況が改善されたということは、支払う側が苦境に立たされたということも意味する。

 下部カテゴリーのクラブは、何も選手を搾取したくて安い報酬しか与えていなかったのではない。それしか払えないから、である。J3で過酷な生活を強いられているのは選手だけではない。彼らを支えるフロントのスタッフは、選手以上に厳しい状況に置かれている場合が多い。

 予算の規模は変わらない。それでも選手の報酬をあげなければならないとなれば、一番手をつけやすいのは選手会にも入っていないフロントの人間となろう。選手への報酬という“出口”の拡大を決定した以上、Jリーグには“入り口”、つまり新たな収入確保の道も考えていく必要がある。

 目指すべきは、選手だけでなく、チームに携わる人すべてが豊かになる道。今回の決定が、その第一歩となってくれることを祈る。(金子達仁=スポーツライター)

コラムランキング

バックナンバー

【楽天】オススメアイテム