我が道_西野朗
【我が道】西野朗㉚ 古豪タイ代表の復活へ全力
2022年11月21日 12:00
サッカー
優勝候補のベルギーを相手に前半は0―0、後半3分に原口元気、7分に乾貴士が決めて2―0になった。全員が「行けるんじゃないか」という雰囲気になったし、私も「ベスト8か」と、勝利が頭にちらついた。ただ、サッカーでは2―0が一番難しい。この瞬間、冷静な長谷部誠がベンチに「どうしますか」と聞いてきたが、私は雰囲気が良かったので「このままいけ、このままでいい」と3度繰り返した。長谷部は本気で3点目を取りにいくのか、引いて守備を固めながらカウンターを狙うのか、具体的な指示が欲しかったのではと思う。案の定、攻めたい攻撃陣と守ろうとする守備陣に少しずつギャップが出てきた。雰囲気と状況だけを見て「このまま」としか伝えなかったことは、私自身悔いが残った。
不運な失点でベルギーに突破口を与えると、後半29分についに追いつかれた。そして、4分のアディショナルタイムも3分が過ぎたところで日本が左CKを得た。このCKでおそらく後半が終了し、延長戦に入る。それでもベルギーは全員が守備に戻るのではなく、ハーフウエーライン付近に2人残っていた。失点すれば負けるが、リスクがある中でも得意な超高速カウンターに備えていた。ベンチで「この状況でも、自分たちのスタイルを最後まで貫くんだ」と感じた。
左CKを蹴るのは本田だった。本田のキックは初戦のコロンビア戦で大迫勇也に合わせてゴールを生んだものとほぼ同じ軌道だった。違ったのはベルギーのGKが世界No・1のクルトワだったこと。パンチではじけばそこで後半終了だったと思うが、キャッチされ、スローから超高速カウンターを仕掛けられてシャドリに決められた。「なぜ延長を狙わない」と、ゴールを狙って味方に合わせにいった本田のキックを批判する人もいたが、日本にとって得点のチャンスで勝負の場面。ゴールを狙わない選択肢はなかった。CKでチャンスを得た場面からわずか十数秒で敗者に。サッカーの残酷さだった。
日本代表は私の後任に森保一が五輪代表と兼任で就任した。私はタイ代表を率いて9月5日にW杯アジア2次予選初戦のベトナム戦を控えている。やはりピッチの上はワクワクする。まずはタイのサッカーのことを知り、選手をリスペクトしてチームづくりをしようと思っている。そして私のサッカーを伝えきりたいと考えている。アジアの古豪復活を全力で追求していきたいと思っている。 =おわり=
構成・大西 純一