ラプターズの渡辺が作り上げた見えにくい好記録 3点シュート阻止のスペシャリスト?
2021年02月05日 09:31
バスケット
このとき46本中41本を成功した彼の個人成績をチームから与えられていたメディア・ガイドブック(インターネットによるデータ提供のない時代)を見て私は驚いた。確かににその前年に40・7%という高い成功率を残していたが、ペリーは81試合に出場して(先発26試合)、3点シュートは59本しか打っていなかった。1試合に1本さえも放っていなかった計算になる。練習時の成功率が「89%」だったのに…である。
21世紀に入って3点シュートはNBA各チームのノーマルな戦術となった。チームの成功率が30%台の中盤より上であれば、2点を狙うよりむしろシュート1本当たりの得点効率が良いというデータが浸透すると、昔はゴール下だけが“仕事場”だったサイズの大きいセンターもアウトサイドからシュートを打つようになり、そのポジションナンバーから「ストレッチ5」と称されるようにもなった。
今季1試合当たり、最も3点シュートを放っているのはトレイルブレイ―ズで平均42・6本。これは全体のショット数の46%を占めている。オフェンスの2回に1回はラインの外からボールをリリースしている計算。裏を返せば、守る側にしてみると勝つためにはこの“長距離砲”をどうやってつぶしていくかがカギになる。
「CONTEST」という単語がある。日本語でも「コンテスト」。「競争する」「争う」という意味でおなじみだ。ただバスケではシューターに対して手を伸ばし、ジャンプして妨害する行為を指している。試合経験のある方ならわかると思うが、この行為はけっこう骨が折れる。肉体的にも精神的にもだ。なぜならもしボールをはたき落としてブロックショットとなればそれは相手のシュートを防いだという明確な結果をもたらすが、そうでない場合、たとえシュートが外れたとしてもコンテストをしたディフェンダーの功績なのかどうかはわからない。おまけに3点シュートなので相手はリングから離れた位置に立っている。もし流れの中でいったん自陣ペイント内に収縮して入ってしまうと、“現場”に到着するにはエネルギーを必要とするので自分の体力を削り取ることになる。
だからNBAのトップシューターたちはオフェンスでは3点シュートをどんどん放っているが、いざディフェンダーとなるとあまり手を出さない。コンテストをやりすぎると体力を消耗し、自分のシュートの精度を下げてしまうことをわかっているからなのだろう。今季1試合で最も多く3点シュートを放っているのはステフィン・カリー(ウォリアーズ)とC・J・マッカラム(トレイルブレイザーズ)の11・0回だが、試合全体の4分の3に相当する36分平均で、カリーは1・8回しか相手の3点シュートに対しては“戦い”を挑んでいない。得点部門1位のブラドリー・ビール(ウィザーズ)も2・8回。これは決して“罪”なのではなく、チームに貢献するには削らざるをえない不採算部門なのだ。
八村塁(ウィザーズ)は36分換算で4・1回(2点シュートを含めると7・6回)。ドラフト同期で全体トップ指名だったフォワードのザイオン・ウィリアムソン(ペリカンズ)が6・4回(同10・2回)であることを考えるとまだまだ「上」を目指さないといけないだろう。
さて今季15試合以上出場した選手に限定して、36分当たりの3点シュートへの平均コンテスト数を並べてみた。ウィリアムソンは2位。そして前週まで11位、今週は13位に入っているラプターズのベンチ・プレーヤーがいる。平均出場時間は12・6分だが、彼のスタッツは36分に換算すると5・1回(2点シュートを含めると12・4回)。八村をどちらも上回っている。
それが「2―WAY契約」の選手ながら、今やラプターズのローテーションに欠かせない存在となった渡辺雄太。彼のコンテスト回数は、チームではクリス・ブーシェイ(5・6回&17・7回)に次いで2番目となっている。3点シュートの成功率(46・2%)とブロックショットの本数(平均0・7本)も向上しているが、ニック・ナース監督が渡辺の存在を重視しているのは、功績を認めにくい部門で主力選手が避けて通りがちな仕事を日々、ひたすら黙々と続けているその姿なのかもしれない。
バスケのコンテスト。それは人の生き方にも通じるような気もしている。一生懸命やっても評価されないことが多いが、それなくしてゴールにはたどりつけない…。だから数回の努力が報われなかったといってめげてはいけない。結果は山ほどの失敗の中から生まれてくるもの。ラプターズの背番号18には何か教えられるものが多い。
四半世紀もお蔵入りしていたペリーのネタからたどりついた渡辺雄太物語?そう誰にも邪魔をされなければNBA選手の3点シュートの成功率は「89%」だと認識すべきなのだ。だから“ダメモト”であっても相手のシュートにくらいついていかなければならない。相手の視野の中に自分の体のパーツをねじ込まなくてはいけない。なぜ今季リーグ1位のクリッパーズの3点シュートの成功率が42・3%でしかないのか?それは渡辺以外にも黙々とコンテストを挑んでいる選手が各チームに多数いるからだ。
ラプターズは5日(日本時間6日)にネッツと対戦。リーグ屈指のスコアリング・マシン、ケビン・デュラント(32)と、カイリー・アービング(28)とジェームズ・ハーデン(32)という超攻撃型のガード2人との対戦が待っている。ポイントガードからセンターまですべてのポジョシンの選手を守る渡辺にとってこの試合はよりいっそうの「コンテスト」が必要になる正念場となるだろう。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。
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