【内田雅也の追球】敗戦時の本性と忍耐力 零敗の阪神 最後の打者・佐藤輝に見た反骨

2021年04月09日 08:00

野球

 【セ・リーグ   阪神0ー3巨人 ( 2021年4月8日    甲子園 )】 田淵幸一(本紙評論家)に球団創設80年の2015年に聞いた話を覚えている。今の阪神に向け「個性豊かなスターがほしい」と言った。藤村富美男や掛布雅之、金本知憲らを例に「それは3点ビハインドの終盤を迎えてもファンが席を立たない。9回に回ってくる打席を楽しみに待てる打者だ」と語っていた。
 この夜、甲子園の観衆8001人は満杯と言える。新型コロナウイルス感染拡大でまん延防止等重点措置が適用され、大幅な入場制限があった。

 0―3で9回裏を迎えても阪神ファンは席を立たなかった。途中、雨も降り、肌寒いなか、最後の攻撃に望みを抱いていた。打順から佐藤輝明に回る期待もあったろう。

 だが先頭ジェフリー・マルテ安打の後、大山悠輔、ジェリー・サンズ、そして佐藤輝が3者連続三振で零敗となった。

 <人間は窮地に追い込まれるほど本性が現れる>と野村克也が著書『弱者が勝者となるために――ノムダス』(ニッポン放送プロジェクト)で書いている。<9回2死、最後の打者になった時に本性が見える>。

 佐藤輝はどうだったか。空振り三振すると、顔をしかめ、ベンチに歩いた。リーグ最多の三振数は21個目。下を向かず、上空に目をやった。これが本性なら大物新人は大したものだ。闘志は失わず、前を向いている。次はやり返してやる、という反骨の炎が見えた。

 ともあれ、この夜の敗因は打線だった。巨人先発・高橋優貴に8回途中まで2安打と沈黙した。

 試合序盤にテレビのリポーターが打撃コーチ・北川博敏の談話を紹介していた。高橋の好調を見て取っていたのだろう。「追い込まれてもファウルするなど粘り強く攻撃してほしい」

 北川の指示はその通りだろう。難敵を倒すにはチーム全体で向かい、消耗戦に持ち込みたい。だが、実際は粘れなかった。2ストライク後のファウルは5本だけだった。2回裏の梅野隆太郎2本、3回裏の投手・秋山拓巳2本、4回裏の糸原健斗1本である。高橋の投球数も7回終了時で104球と少なく、消耗させるまでにはいたらなかった。

 阪神の各打者は緩急差に対応できず、粘る前に打たされていた。今季初先発の捕手・炭谷銀仁朗のリードに戸惑った側面もあっただろうか。

 <敗れた時、これが肝心なのだ>と野球を愛する作家・伊集院静が『逆風に立つ』(角川書店)で書いている。<いかに冷静に結果を見つめ、次になすことを見つけ、成功までの苦しい時間を耐えられるかだ>。

 さらに<忍耐力を養うのに一番必要なことは強靱(きょうじん)な精神力である>と続け<では、その精神力はどうやれば培われるのか>と本質に迫る。<それはなぜ自分がこの仕事をしているのかという、使命感を持つことだ>。

 プロ意識である。ファンを帰らせなかった今の選手たちには、その素養はある。スター待望論を語った田淵の座右の銘は「魅(み)せて克(か)つ」だ。「勝つ」ではなく「自分に克て」と人間力を問うている。

 佐藤輝も阪神も、忍耐力、精神力、そして使命感が問われている。=敬称略=(編集委員)
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