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【内田雅也の追球】「隠し剣」の切れ味 気配すら感じさせなかった捕手・梅野の谺返し

2022年03月09日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「隠し剣」の切れ味 気配すら感じさせなかった捕手・梅野の谺返し
<オープン戦、神・広>3回1死二、三塁、打者・西川に対しての3球目、外角低めに構える梅野(投手は西勇)(撮影・坂田 高浩) Photo By スポニチ
 【オープン戦   阪神10ー3広島 ( 2022年3月8日    甲子園 )】 見事な三塁送球で走者を刺した阪神・梅野隆太郎の動きを試合後、球団配信動画『虎テレ』で見直した。梅野が三塁手・大山悠輔とのアイコンタクト、目で対話していたと明かしたからだ。
 1点先取した直後の3回表1死二、三塁。左打席に3番・西川龍馬。二遊間は引いて守り、打者は当てるのがうまく、三振の望みは薄い。1点覚悟の状況だった。

 初球膝元スライダー、次いで外角低めチェンジアップで1ボール―1ストライク。この2球で三塁走者・大盛穂の離塁(第2リード)が大きいと大山―梅野はアイコンタクトしていたわけだ。ゴロゴーでの本塁突入を狙っていたのだろう。

 ところが、見直してみると、この2球の間、梅野は全く三塁走者を気にするそぶりをしていなかった。三塁に目をやるでもなく、間合いを取るでもない。普通の所作で捕球、投手への返球を繰り返していた。気配を消していたのである。

 剣豪小説のようだ。藤沢周平の『隠し剣』シリーズで、たとえば『盲目剣谺(こだま)返し』=『隠し剣秋風抄』(文春文庫)所収=の主人公・新之丞は盲目である。果たし合いで相手を倒した一撃を振り返る。<剣は気配を探るひまもなく、相手の動きに反応しておのずから動いたようである。虚心が生んだ動きとしか思えなかった>。

 西川への3球目。梅野の要求は外角低め直球。三塁けん制を念頭にしたボール球要求だったかもしれない。気配を消していた梅野が捕球した瞬間、猛然として動き、矢の送球で刺したのだった。相手に気配を感じさせない、谺返しだった。

 同点やむなしの場面でのけん制刺は大きく、西川も三振に取り、無失点でしのいだのだった。

 それにしても、梅野の好送球で思うのは、視野の広さである。捕球するボールしか見ていないようでいて、三塁走者も三塁手も、そして打者も見ていたわけだ。

 宮本武蔵の言葉に「目の付けようは大きに広く付くる目也」がある。剣道用語で言う「遠山(えんざん)の目付」だ。古田敦也も捕手の極意として話していた。相手の1カ所だけを見るのではなく、遠い山を見るように全体を見るわけだ。

 『――谺返し』は監督・山田洋次が『武士の一分』として映画化した。決戦時の<武士の一分が立てばそれでよい>との境地を言う。梅野の「捕手の一分」が見えた試合であった。 =敬称略= (編集委員)

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